いじめ対策は予防教育に全力を。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 






【解答乱麻】明星大教授・高橋史朗




自民党は総裁直属の「教育再生実行本部」(下村博文本部長)を設置し、5つの分科会で11月中に教育改革ビジョンを策定する方針を決めた。10月の同分科会で提言させていただいたが、日本の教育は根が枯れ幹が腐りかけており、枝葉の対症療法的改革だけでは再生不能である。

 教育再生の取り組みは目先の費用対効果で仕分けてはいけない。国家百年の大計に立って、家庭教育と幼児教育という教育再生の根と幹に焦点を当てた根本的改革を望みたい。

 大津市の事件以来、いじめの全国的広がりの実態が浮き彫りになったが、いじめの根っこにある問題は、共感性と規範意識の欠如である。

 かつて臨教審のプロジェクトチームは「いじめっ子は3歳児で発見できる」との中間報告を発表したが、第1部会でご一緒させていただいた山本七平氏は、「親子を共に律する規範」がなければ、信頼感は生まれない、これを培ってきたのが日本の家庭教育の伝統だと指摘した。

 弱い者いじめは人間として恥ずべき行為だという価値規範の形成、相手の痛みを感じる共感性を育む愛着形成こそ家庭教育の2大役割である。前者は父性的関わり、後者は母性的関わりによって育つものである。

文部科学省の徳育に関する懇談会によれば、この恥と共感性が育つ臨界期は2歳の終わりであるという。ならば、いじめを予防するために、3歳までにこの2つの愛情(優しさと厳しさ)を注ぐことに国を挙げて取り組む必要があるのではないか。いじめと深い関係にある自己抑制力や共感能力の中枢である眼窩(がんか)前頭皮質の発達の臨界期は3歳までであることが米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の共同研究によって明らかになっている。

 平成20年に施行された兵庫県小野市のいじめ等防止条例第8条(家庭の役割)には、「父母その他の保護者は…社会の決まり等を身に付けさせる役割を果たさなければならない」と明記されている。また、10月2日に可決成立した岐阜県可児(かに)市の子どものいじめの防止に関する条例第6条(保護者の責務)にも「保護者は…いじめは許されない行為であることを説明し、これを充分に理解させるよう努めます」と書かれている。さらに、全国に先駆けて熊本県が策定した「家庭教育支援条例案」第6条にも保護者の役割が明記されている。

 米国では50州中49州で「いじめ対策法」が制定されて成果を上げているが、それは家庭や地域もいじめ防止に責任を負っているという意識改革が徹底されているからだ。

わが国に今求められているのは、このような親、大人の意識改革である。そして、親の責任を明記した教育基本法第10条の趣旨を発展させる家庭教育支援法(国)・条例(地方)といじめ防止対策基本法(国)・条例(地方)の制定が必要である。さらに急増しているネットいじめへの対策を保護者に啓発する「ネットアドバイザー」を育成、小中学校に派遣することが急務である。

 カナダでは「共感の根」プログラムが実施され、妊娠中のカップルが小中学校を訪れ、出産後も親子で毎月学校を訪問し、親子の絆、共感性に気づかせる体験学習が行われているが、わが国でもこうした「親になるための学習」が必要である。

 富山県の専門学校(浦山学園)で「親学ワークブック」が作成され、親学が正規の授業科目となったが、これを全国に広げる必要がある。





【プロフィル】高橋史朗

 たかはし・しろう 埼玉県教育委員長など歴任。明星大学教育学部教授、一般財団法人「親学推進協会」理事長