修身教科書「私たちの家」 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 






【消えた偉人・物語】




わが国古来の美風「祖先崇拝」


 

 終戦直前の昭和20年5月、連日の空襲警報に脅かされる中、日本民俗学の先駆者・柳田國男が「祖先の話」を書き上げた。戦死した多くの若者の魂の行方を想い、日本人の死生観や霊魂感を解き明かした書である。柳田は本書の中で「家の永続は大きな問題とならざるを得ない」と書いているが、「家」の存続は当時からすでに懸念されていた問題であった。柳田はその家の「大切な基礎が信仰であった」と言っているが、当時はまだ国定修身教科書(第5期)で、家における祖先祭祀(さいし)の重要性を次のように教えていた。

 

 「私たちの家は、先祖の人々が代々守り続けて来たものであります。先祖の人々が家の繁栄をはかつた心持は、父母と少しも変りがありません。私たちは、このやうに深い先祖の恩を受けて生活してゐるものです。したがつてこの恩を感謝して、先祖をあがめ尊び、家の繁栄をはかることは、自然の人情であり、またわが国古来の美風であります。(中略)先祖に対しては、祭祀を厚くすることが大切であります。さうしてよく先祖の志をつぎ、先祖ののこした美風をあらはすやうにつとめなければなりません」(「私たちの家」)

日本への深い洞察を示したラフカディオ・ハーンによれば、先祖の「恩を感謝」するという情操は「西洋の感情生活のなかにはない」のだそうだ(「祖先崇拝の思想」)。ハーンは日本人の愛国心、孝道、家族愛、忠義の念は先祖に対する感謝と尊敬の愛情に基づいていると分析した。そして、「必ずいつかの日にかは、われわれ〔西洋人〕を滅亡から救うために、この人間愛を求めざるをえない時がきっとくるにちがいない」とまで言っているのである。

 

 ハーンは西洋人の「滅亡」救済に祖先崇拝という「人間愛」を求めているが、今日の日本人とて、それは決して他人事ではなくなってきているのではないのか。民法が改悪され、「家」制度が廃止されて60数年がたつ。制度はなくなったが、「先祖をあがめ尊び、家の繁栄をはかる」ことは決して失ってはならない「わが国古来の美風」であることを私たちは忘れてはなるまい。

                       (皇學館大学准教授 渡邊毅)

草莽崛起:皇国興廃此一戦在各員一層奮励努力。 

      国定修身教科書=昭和14年、文部省発行