【40×40】山田吉彦
先日、札幌で北方領土出身者とその家族の方々と話す機会があった。残念ながら悲観的な考えが主流になっている。政府、外務省や北方領土問題の評論家たちの多くは、今は動かずに耐える時期だと言うが、それでは北方領土返還運動を進める意味がわからないと彼らは言う。
評論家たちの議論は、相変わらず、2島先行返還論と4島一括返還論にわかれ平行線をたどったままだ。両陣営ともサンフランシスコ平和条約における千島諸島の範囲やその後のロシアの要人の発言を解説するだけで、現実的な解決策を示す者はいない。結局、両陣営とも日露の話し合いが重要だ、という落としどころとなる。いったい何年、話し合いをすれば解決するというのか。ロシア側の発言は、ころころと変わる。1998年の橋本・エリツィンによる川奈会談も2001年の森・プーチンのイルクーツク声明も昔話ではないだろうか。その間に世の中は明らかに変わっている。しかも、ロシアにおける市場経済化は進み、政治体制も民主化が進みプーチン大統領の一言で北方領土問題が解決するわけではない。現実的な北方領土返還交渉が求められる。
ロシアは、サハリンのガス田開発に意欲を見せている。しかし、この事業も前途多難だ。米国を中心に開発が進められてきたシェールガスが普及することで、サハリンのガスの魅力は激減することだろう。ロシアは、シェールガスが一般化する前に、サハリンの利益を獲得しなければならない。ロシアにとっても時間的な余裕はないのである。しかし、サハリンのガスを量産するためには、液化天然ガス(LNG)プラントを増設する必要がある。だが、LNGプラントを造るには1兆円ほどの費用が必要なのである。外資を導入しなければならない。答えは見えている。サハリンガス田開発はガスの売却先も含め、日本を抜きにしては考えられないのである。
また、ロシアは北極海を船で通過する「北極海航路」を推進している。この航路の開発には、基点海域にある日本の協力が不可欠だ。日本は、自虐史観を捨て、あらたな交渉の材料を用意し、日露関係の将来を見据えた北方領土返還交渉に臨まなければならない。交渉に力を入れる時期は今だ。
(東海大教授)