日本の次期主力戦闘機に決定したF35
今年4月~9月にかけて、航空自衛隊のスクランブル(領空侵犯の恐れがある航空機への緊急発進)が、前年同期と比べて6回増加し209回と、上半期としてはこの10年間で最多だったという。航空優勢を担保できる戦闘機の必要性はますます高まっている。
こうしたなか、紆余(うよ)曲折を経て次期戦闘機に決定したのがF35だ。しかし、開発の遅れや価格の高騰など懸念材料は多い。中でも気になるのは、わが国における維持整備基盤について、どのようなビジョンを持っているのかということだ。
先日、同機の最終組み立てを行う三菱重工が、在日米軍機についても修理や整備を請け負う可能性があると報じられた。実現すれば国内産業維持のためにも朗報だ。
すでに戦闘機の世界は共同開発をはじめとする新たなタームに入っているといえ、これまでの概念とは違った仕組みが進行していることもよく知らねばならない。
F35は米国やイギリスなど9カ国による共同開発である。日本は加わっておらず、昨年末に武器輸出3原則が緩和され、共同開発・生産にやっと門戸が開かれたところだ。そして、開いた扉の向こうには未知の世界が広がっていたのである。
まずF35は、これまでのような各国それぞれでの維持体制ではなく、ALGS(オートノミクス・ロジスティック・グローバル・サステインメント)という仕組みの中に置かれる方向性で進んでいる。部品や整備の状況がリアルタイムで発信され、ロッキード・マーティン社で管理される。すなわち、同社が健康管理の全てを行うと言っていい。
私はこのシステムを初めて聞いたとき、非常に驚いた。可動率は「秘」という認識であったが、もはやこれからは、こうした情報も共有して運用にかかる経費を削減しようという考え方なのだ。
是非はともかくとして、この考え方からすると、F35の維持整備基盤とは、日本国内だけでなくアジア地域など広範囲の拠点となることであろう。
最近は、韓国企業が米国航空機の修理などサポート分野に積極的に乗り出しているようであり、日本人の知らないところでさまざまなことが動いているのが現状だ。
わが国が、これまでの技術・ノウハウを生かし、地域における戦闘機維持の拠点を確立するのか、あるいは部品供給を受ける側になるのか岐路に立たされている。この問題は今回では語りつくせないので、またの機会に改めてリポートしたい。
■桜林美佐(さくらばやし・みさ)1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、ジャーナリストに。防衛・安全保障問題を取材・執筆。著書に「誰も語らなかった防衛産業」(並木書房)、「日本に自衛隊がいてよかった」(産経新聞出版)など。