北朝鮮元党幹部が証言
北朝鮮から昨年11月に脱北した元朝鮮労働党幹部の男性が27日、東京都内で開かれた北朝鮮問題に関する学会で「男性25人、女性16人の日本人拉致被害者が現在も、平壌にある(隔離施設の)招待所で監禁されている」と証言した。裏付けはなく、日本政府が認定する拉致被害者に当たるかは不明だが、金(キム)正恩(ジョンウン)政権移行以後、党中央機関に所属した元幹部が日本人拉致被害者について公の場で証言するのは初めて。
元幹部は27日、明治大学で開かれた「アジア人権人道学会報告会」に北朝鮮の実態を知る証言者として出席。「自分は直接、日本人拉致被害者の管理には携わっていない」と前置きしながらも2002年10月に拉致被害者5人が帰国した後も計41人の日本人拉致被害者が「招待所に監禁されていると聞いた」と話した。元幹部は政権指導部に当たる党中央委員会の機関で勤務した経験もあるという。
産経新聞の取材に元幹部は02年に金正日(ジョンイル)総書記が拉致を認めて以降、党幹部内で日本人拉致について話が出るようになり、41人については「ここ5年以内に複数回聞いた」と証言。いずれも党の工作機関である作戦部が管轄し、工作員や他の拉致被害者らが暮らしていた平壌の龍城(リョンソン)区域で「男女別々の招待所に収容されている」という。「会ったことはなく、名前も分からない」とも話した。
拉致は「日本人は韓国に自由に入国できるので対南工作に利用する目的だった」とし「秘密を知っているため、正恩政権になっても日本に帰すことはできないだろう」との見方も示した。拉致被害者の支援組織「救う会」の西岡力会長は「党の中枢機関におり、証言は極めて貴重だ」。政府関係者も「把握されていない日本人がいる可能性もあり、事実確認する必要がある」としている。
日本人拉致事件
1970~80年代に日本人が相次ぎ失踪する事件が発生。2002年9月の日朝首脳会談で金正日総書記が初めて拉致を認め謝罪し、曽我ひとみさんら5人が帰国した。北朝鮮は横田めぐみさんら8人は「死亡」と説明しているが、全く裏付けがない。日本政府は12件17人の被害を認定。民間団体によると、拉致の可能性を排除できない「特定失踪者」は今年6月時点で約470人いるとされる。