「領域警備法の制定」 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 








【金曜討論】荒木和博氏、水島朝穂氏




沖縄県の尖閣諸島に中国や台湾の漁船・公船が押し寄せるなか、不法な領海侵犯に平時から自衛隊が対処できる「領域警備法」の制定を求める声が高まっている。かつて北朝鮮の工作船による領海侵犯事件を受けて検討されるようになった同法制定の是非について、特定失踪者問題調査会の荒木和博代表と、早稲田大法学学術院の水島朝穂教授に聞いた。(溝上健良)





 ≪荒木和博氏≫


国際常識に照らし判断を


 --領域警備法の制定は必要か

 「それは当たり前のことであって、今まで制定されていなかったことが不思議に思える。長い日本の海岸線の守りに海上保安庁だけで対処するには無理がある」


あって当然の法律


 --平成13年の奄美沖の北朝鮮工作船には海保が対峙(たいじ)した

 「工作船は相当の武器を積んでいたが、海保の船はそれを想定したものではない。必要に応じ、相手の船を撃沈するなど武力行動も取らなければ抑止できないし、今後拉致が起きないともいえない。領域警備法は、あって当然だ」

 --現行憲法に照らして、領域警備法の制定はどう判断される

 「そもそも『平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して…』という国際情勢とまったく違うことを前提にしている今の憲法が間違っている。憲法をすぐに改正できない以上、当面は常識でもって対処するしか方法がないだろう」

--憲法改正の必要性は

 「今の憲法は米国が英文で作ったものの翻訳が元になっており、もともと無効なものだと理解している。本来、占領解除後すぐに改正する必要があった。領域警備が今、問題になっているのは、憲法の矛盾が表に出ないように隠し続けてきた結果だといえる。実際には政府発表よりはるかに多くの工作船が日本に来ており、少なくとも100人以上、おそらくはるかに多くの人が拉致されている」

 --そうした工作活動を防ぐために、スパイ防止法は必要か

 「その種の法律は必要だが、作っても実効性のある取り締まりができるかどうかが問題だ」

 --拉致は犯罪ではなく戦争だと主張されているが

 「北朝鮮の一部の勢力がやったのなら犯罪といえるが、拉致は国家意志で行われており、明らかに戦争といえる。拉致問題解決には北朝鮮国内の一部勢力を支援するようなことも含めてあらゆる手段を使うべきで、現行憲法がある以上、前文の『専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去…』という文言も行動の法的根拠として利用すべきだろう」

 --自衛隊が拉致被害者を救出することは、憲法の枠内で可能か

 「憲法には基本的人権の尊重が規定されている。拉致された国民の人権が奪われており、それを回復する、という観点で可能ではないか。北朝鮮の体制が崩壊して無秩序に陥った場合にどう被害者を保護するかは当然、考えておく必要がある」


平和を守る方法


 --尖閣の守りについて

 「やり方はいろいろあるだろうが、少なくとも自衛隊が関与していることを相手に知らしめるだけでも抑止力になる。ある意味で一番、平和を守る方法ではないか」

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【プロフィル】荒木和博

 あらき・かずひろ 昭和31年、東京都生まれ。56歳。慶応大法学部卒。民社党全国青年部副部長などを経て、拓殖大海外事情研究所教授、特定失踪者問題調査会代表。予備1等陸曹で、予備役ブルーリボンの会代表も務める。著書に「山本美保さん失踪事件の謎を追う 拉致問題の闇」など。















 ≪水島朝穂氏≫


海保で十分に対処可能だ


 --領域警備法の制定について

 「なぜ、こういうものが必要なのかの根拠を、推進論者は具体的に明らかにできていない。実際、現行法で十分に対応は可能であり、それを運用できない政治の問題なのであって、憲法とか法の不備といった議論は筋違いである」


法的混乱もたらす


 --現行法で問題ないとは

 「海上保安庁が日本周辺海域の問題について一義的に責任を負い、それが十分でないときに海上警備行動が発令され海上自衛隊が出る仕組みになっている。国際法上、『領海侵犯』という概念はない。軍艦でも領海の無害通航は認められている。海自の領海警備権限を押し出す試みは法的混乱をもたらし、対外的にも誤ったメッセージを出すことになる」

 --尖閣の守りは海保で十分か

 「大丈夫とは断定はできない。そういう事態にならないように外交力を駆使する必要があるのだ」

--日本が自制していれば中国は出てこないといえるか

 「そうは言っていない。かりにある程度の漁民が上陸したとしても、海保で対処可能だ。また、私の立場ではないが、現行法を前提にすれば、万が一『ゲリラ』が上陸したとしたらそれは法的には陸自の問題になる。領域警備法は屋上屋を架すもので、問題解決にはつながらない」

 --領域警備法が出てきた背景に北朝鮮の不審船事件があった。海保で工作船に対処できるのか

 「確かに奄美沖の工作船(平成13年)は対戦車用火器などを積んでいたが、だから海自護衛艦で対処、ということにはならない。海洋の治安確保は周辺国の海上警察のネットワークを強めていくことが大切だ。海保の大型巡視船は強力で、対応は可能だろう」

 --尖閣諸島について、米国は「日米安保の適用範囲」と繰り返し表明しているが、どうみるか

 「それは安保条約を前提にする立場からすれば、当たり前のことを言っているにすぎない」

 --尖閣で有事の際、米軍は守ってくれるか

 「米国にとっては米軍基地を守ることが第一義。議会や国内事情により、米軍が尖閣で動くことは自明ではない。そもそも尖閣問題をそういう軍事一辺倒の発想で解決しようとすることが問題だ」

領土規定は不要


 --憲法に領土保全や邦人保護の規定は必要と考えるか

 「憲法は国家主権を掲げており領土保全や自国民保護も当然、そこに含まれている。それゆえこれらを憲法に書く必要はない」

 --とはいえ中国は憲法の序言で台湾を領土と明記しているが

 「憲法で何でも規定したがる傾向があるが、日本国憲法に領土規定を盛り込むのはナンセンスだ」

【プロフィル】水島朝穂

 みずしま・あさほ 昭和28年、東京都生まれ。59歳。早稲田大大学院法学研究科博士課程満期退学。札幌学院大助教授、広島大助教授などを経て、現在は早稲田大法学学術院教授。法学博士。著書に「東日本大震災と憲法-この国への直言」、共著に「憲法裁判の現場から考える」など。