【風を読む】論説副委員長・西田令一
中国が成長軌道を走りだした十数年前、「良い中国」になるか「悪い中国」になるか議論を交わした覚えがある。それを見極めるため、米国は周辺での中国の振る舞いを注視していると聞き、なるほどなと感じたりしたものだ。思えば、まだ穏やかな時代だった。
今や、背後に当局ありのデモで日系企業に甚大な被害が出ても日本の尖閣諸島国有化に責任を転嫁し、公船の尖閣領海侵犯で日本の主権を脅かす国だ。どっちの中国が顕現したか言うまでもあるまい。
中国の居丈高な「振る舞い」に国際社会が最初に気付いたのが、コペンハーゲンの気候変動会議でオバマ米大統領の協議申し入れを温家宝首相が峻拒(しゅんきょ)し外務次官が欧米を罵(ののし)った2009年12月だろう。
米国の懸念は翌10年5月、一気に強まる。米紙ニューヨーク・タイムズによると、クリントン米国務長官は、北京で会談した戴秉国・国務委員が東南アジアの一部などと領有権を争う南シナ海の大半を中国領海と宣したのに仰天し、それがオバマ政権に路線転換を促した。
その2カ月後、東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会合が閉幕したハノイで、長官は南シナ海での航行の自由や国際法尊重を米国益と位置付け、強要や武力の行使・威嚇に警告した。アジアの海で中国との対峙(たいじ)へと舵(かじ)を切ったのだ。
対中警戒感は程度の差はあれ国際的に浸透しているとみていい。が、尖閣問題となると、「世界2、3位の経済大国の対立」式の2国間問題という捉え方が専らだ。
流れを変えて国際的支持を広げるには、日本自らがまず、尖閣問題は万国共通の「中国問題」でもあるとの認識を強く持つことだ。そして、外に対して、尖閣領有の正当性を説き、中国の反応の不当性を浮き彫りにし、常軌を逸した「振る舞い」の矛先はどの国にも向くという可能性にまで踏み込むことだ。
われわれだけじゃない、あなた方の問題でもあるんだと。