超円高の元凶「小出し緩和」 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 










【経済が告げる】編集委員・田村秀男





表向きは円高に「憂慮」を口にしてみせる日銀の白川方明総裁が「金融緩和」策を追加するたびに、円高は是正されるどころか逆に進行することをご存じだろうか。

 何よりの証拠は日銀統計のデータにある。2008年9月のリーマン・ショック直前は1ドル108円台、09年7月、日銀が重い腰を上げて市場からの国債買い上げを前年比で増やし始めると同95円台、日銀が「資産買い入れ等基金」なるものを創設した10年10月は同80円台に上昇した。この「基金」とは日銀の帳簿上に特別枠を設け、お札を発行して国債などの金融資産を買い上げるプログラムのことで、日銀式「包括緩和」の目玉である。ことしは9月の10兆円上積みを含め4度も買い入れ基金上限を改定し、80兆円に引き上げたが、円は77円台まで上昇した。

 日銀は「金融政策を用いて直接的に為替相場に影響を与えることは一切考えていない」(山口広秀副総裁)とにべもない。半導体、家電、自動車など日本の主力産業の競争力を弱体化させ、企業の国内への投資意欲を失わせ、若者の雇用機会を奪う超円高に対して無力と開き直り、無策で通すつもりなら、日銀は無用以下であろう。

 同じ中央銀行の米連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)はお札を継続的に増刷する量的緩和政策(QE)に邁進(まいしん)する。FRBは資産を「リーマン」前に比べ3倍に増やしたが、まだ足りず13日には第3弾のQEに踏み切った。ECBの資産も2倍以上に達し、さらにスペインなどユーロ圏問題国の国債を無制限に買い上げる。対照的に日銀は資産を30%弱しか増やしていない。米欧はお札増刷によるドル安やユーロ安への誘導意図を否定するが、言わずもがなだ。市場であふれるドルやユーロに比べ、日本円供給量は少ない。希少価値の円が高くなるのは当然の帰結だ。

 日銀幹部は「中央銀行の資産規模を対国内総生産(GDP)に比べると、当方は米欧よりも大きく金融緩和している」と量的緩和を拒否し、米欧に比べて極めて遅く、米欧の後を追って小出しに追加緩和する政策を自己弁護する。国際的な円の投機筋は日銀の緩慢さにつけ込む。

 円資産を買って差益を荒稼ぎする投機筋の多くは、ロンドンを足場にする米欧、中東、中国などの投資ファンドである。その投資対象は主として日本国債で、対日国債投資とともに円相場が上がる。

 日銀は「着実な基金増枠」を宣言して投機筋以上の規模で国債を買い増すのだから日本国債の相場は着実に上昇する。外国からの対日国債純投資は昨年12月、年間ベースで21・3兆円に上った後、徐々に下がり始め、円相場はいったん下落基調に転じた。ところが日銀による国債保有は今年3月ごろから急増し始め、その増加規模は5月以降、外国の対日国債投資を上回る。円相場は再び円高基調に回帰した。投機勢力はぬれ手であわとばかり、円高と国債価格上昇のダブルでもうかる。日本には「企業労使のコスト削減等の努力の限界を大きく超える」(豊田章男トヨタ自動車社長)円高がのしかかる。

 日銀を政策転換させる道はもはや政治にしか残されていない。自民党は総裁選で各候補が力説した日本再生実現に向け、日銀が超円高是正を達成するのに十分かつ大胆で明確な量的緩和政策に踏み切るよう決断を迫るべきだ。