【古事記のうんちく】(1)
1300年前の「温故知新」
「この国の揺るぎない歴史を記さなければならない」。古事記には、天皇を頂点とする中央集権国家を目指した天武天皇(在位673~686年)の思いが込められている。
中国にも引けを取らない国づくりには、法律と歴史が必要と考えた天武天皇。古事記の序文には「国家の原理を示し、天皇政治の基本」と高らかに唱える。
本文では、イザナキノミコトとイザナミノミコトが日本列島の島々を誕生させた国生み神話、大国主命(おおくにぬしのみこと)による天照大神(あまてらすおおみかみ)への国譲り、天から神々がくだる天孫降臨、初代天皇となる神武の東遷などを詳述。「天武が古事記をまとめようとした根本には、天皇の血筋の尊さとともに、国の統治は天(天照大神)から委ねられたことを示す目的があった」と同志社女子大の寺川眞知夫特任教授(上代文学)は指摘する。
編纂(へんさん)作業は686年の天武天皇の死去で中断し、712年に元明天皇が叔父・天武の国づくりの遺志を引き継いで完成させた。
日本書紀の記述が41代・持統天皇の譲位(697年)までなのに対し、古事記は33代・推古天皇の死去(628年)で終わっている。その理由について序文は「いにしえのことを明らかにし、衰えた道徳を正さねばならない」と説く。天武の時代の“いにしえ”は推古までだったのだろう。1300年前、すでに「温故知新」の精神があった。
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今年で編纂1300年を迎えた古事記の基礎知識やエピソードを紹介する。
(編集委員 小畑三秋)