【消えた偉人・物語】雄壮な物語「早鳥」
イザナギとイザナミも神産みの段で「鳥之石楠船神(とりのいわくすふねのかみ)」が誕生する。この神は鳥、別名「天鳥船(あめのとりふね)」のように空を飛び、別の神の副使として活躍したりする。これにちなんだ「早鳥」という教材が国民学校後期の「よみかた四」に出ている。
昔、ある所に一本のくすの木がありました。どんな力がこの木にあったのでせう、ひるも夜も、ぐんぐんとのびて行きました。
/いつの間にか、くすの木は、そのてっぺんに、時々雲がかかるほどになりました。
/大きくしげった枝は四方にひろがって、どこまでつづいてゐるのか、とても見当がつかないやうになりました。
/毎朝日が出ても、くすの木の西がはにあるたくさんの村々はみんな日かげになります。また夕方近くになると、東の方の村々もすっかり日かげになってしまひます。そこで、村々の人たちがさうだんして、「あのくすの木を切りたおしてしまはう。」といふことになりました。(切り倒した巨木で大きな船を作る)
大勢のせんどうがのりこんで、「えいや、えいや。」とこぎましたが、おどろいたのは、その舟の早いことです。せんどうたちがかいをそろへて一かき水をかきますと、舟は七つの大波をのり切って、まるで鳥のとぶやうに早く走るのでした。(あまりの早さを不思議に思う村人に知恵者の老人が説く)
「いや、ふしぎでも何でもない。あのぐんぐんとのびて行ったくすの木だ。その力がのりうつったのだらう。鳥のやうに早いから、早鳥といふ名をつけよう。」といひました。
/そののち、早鳥はたくさんの米や麥(むぎ)や豆やくだものをつんで、みやこの方へたびたび通ひました。
/日かげになって困ってゐた村々も、それからだんだんゆたかになって行ったといふことです。
雄壮簡潔な話として再話されている。直訳を超え大胆に子供向けに書かれた一編で、夢が育つ思いだ。
(植草学園大教授 野口芳宏)
「早鳥」の挿絵=「小学国語読本 巻四」 (昭和9年発行)