【消えた偉人・物語】国語読本の巻頭
http://sankei.jp.msn.com/life/news/120714/art12071408090001-n1.htm
俳句人口、短歌人口という言葉があって、ある資料ではそれぞれ300万人、30万人とあるが、もとより正確というわけではあるまい。しかし、それほど多くの人が句歌に親しんでいることは一つの驚きである。
その人気の秘密は何といっても五・七・五が生む言葉のリズムにあることはまず間違いないだろう。
昔の国語読本の巻頭はリズムを重んじた教材で彩られていて、巻頭教材が各期の略称ともなっている。
イエスシ読本(第1期)▽ハタタコ読本(第2期)▽ハナハト読本(第3期)▽サクラ読本(第4期)▽アサヒ読本(第5期)▽いいこ読本(第6期)。巻頭教材は美しいリズミカルな日本語で飾られ、子供は好んでそれを諳(そら)んじた。
一 山ノ上
ムカフ ノ 山 ニ
ノボッタラ、
山 ノ ムカフ ハ、
村 ダッタ。
タンボ ノ ツヅク
村 ダッタ。
ツヅク タンボ ノ
ソノ サキ ハ、
ヒロイ、ヒロイ
ウミ ダッタ。
●イ、●イ
ウミ ダッタ。
小サイ シラホ ガ
二ツ 三ツ、
●イ ウミ ニ
ウイテ ヰタ。
トホク ノ ハウ ニ
ウイテ ヰタ。
「小学国語読本巻二尋常科用」(昭和8年文部省発行)
声に出して読んでみてもらいたい。読むほどに広々と広がる光景が眼前に浮かんでくることだろう。このような美しい文章が戦後のある時期は不人気だった。美文、名文は古臭い。分かりやすい文章が最良だ、というような考え方である。このような「理解優先」の考え方が音読を軽んじ黙読を重んずる風潮も生んだ。
いまは「伝統的な言語文化」が大切にされるようになってうれしい。日本語はやはり美しい。
(植草学園大学教授 野口芳宏)