【日中憂交】(2)
私が警察官だった2003年まで、中国人といえば不法滞在者や密入国者が多かった。犯罪捜査にあたった実感で言うと、東京在住の中国人の相当数がそのどちらかであったように思う。
1人を逮捕して、その裏付けとなる居住先、勤務先の参考人を当たるにも、彼らは中国人脈で生活しているため、参考人も中国人ばかり。ほとんどは不法滞在者のため、参考人調書も作成できない状態だった。
犯罪に至った経緯を解明しようとすれば、最低3、4回の取り調べが必要だが、あまりに中国人犯罪が多すぎて通訳が足りない。しかも、中国人被疑者はよく嘘をつくうえ、ついた嘘を忘れるので供述は二転三転し、留置場は中国人犯罪者で満室だった。
これを解決したのが「入管難民法65条渡し」である。同条は、余罪のない不法滞在者は、警察から入国管理局に直接引き渡すことができる-というものだが未活用だった。
03年10月から、警視庁と入国管理局、石原慎太郎知事率いる東京都が「5年間で不法滞在者を半減させる」という目標を掲げて適用を始めると、中国人不法滞在者たちは東京から一斉に逃げ出した。04年から05年にかけて、都内から中国人が激減したと感じた人も多かったはずだ。
ところが、すぐ抜け道はつくられた。
その1つは、偽装中国残留孤児家族だ。終戦間際の混乱期に中国に置き去りにされた経緯から、日本では同情的に迎え入れられた残留孤児と家族だが、残留孤児には「中国でお世話になった」という思いもあり、来日したがる同郷の中国人を「親族」として申請し、日本に引き入れたのだ。
私自身が取り扱った事件には「残留孤児の孫」を偽装して、日本に滞在していた元黒竜江省警察官もいた。彼は警察署で渡航申請を受け付ける窓口係だったといい、「申告にくる残留孤児の9割は偽者」「役所幹部に根回しして事実と異なる公正証書を発行させた」と証言した。
彼自身、警察幹部である父の根回しで来日していた。日本語も話せない彼らは、DNA鑑定なしに日本国籍を取得しており、逮捕後も強制送還されない。衝突の絶えない在日中華社会でも無敵の存在で、裏社会で確固たる地位を占めている。
彼らの犯罪はすでに「外国人犯罪」ではなく、「日本人犯罪」としてカウントされている。このため、その実態はなかなか表に出てこない。最近、日本人のメンタリティーでは考えられない凶悪事件が続発しているが、こうした一因もある。日本は新たな「在日問題」を抱えているが、国民の多くはこれに気付いていないのだ。
■坂東忠信(ばんどう・ただのぶ)
宮城県生まれ。警視庁巡査を拝命後、交番・機動隊勤務などを経て、通訳捜査官・刑事として、数多くの中国人犯罪捜査に従事する。2003年、勤続18年で警視庁を退職。その後、ノンフィクション作家として執筆・講演活動に入る。著書に「日本が中国の自治区になる」(産経新聞出版)、「日本は中国人の国になる」(徳間書店)など。