【日中憂交】(1)
在日中国大使館の1等書記官が先月末、警視庁公安部からの出頭要請を拒否して、帰国した。公安部は長年、彼を中国人民解放軍の情報機関「総参謀部第2部」所属と把握していたが、スパイ防止法がなく手出しできなかった。今回、外国人登録法(虚偽記載)と公正証書原本不実記載及び同行使で書類送検した。
1等書記官は、松下政経塾の特別塾生や、東京大学付属機関の研究員などを経て、日本の政財界に人脈を築いた。鹿野道彦前農水相や筒井信隆前農水副大臣と近く、防衛産業に近づいたことも分かっている。農水省関連の機密文書が漏れた疑いも浮上している。
中国の工作活動の特徴は「掃除機式」といわれる。あらゆる場所に入り込んだ在日中国人を利用して、噂話から国家機密まで幅広く吸い上げ、そこから欲しい情報を抜き出す一方、自国に有利な世論誘導も仕掛ける。
一見、スパイに見えない大学教授や評論家、会社員、ホステスなども要注意なのである。
この方法は、中国人特有の「人脈社会」を抜きには語れない。中国における人物評価の基準は「その人が、誰とどれくらい太いパイプを、どれくらいの距離で何本つないでいるか」である。自分中心の中華社会では、役立ってこそ友達、迷惑を許してくれてこそ親友なのである。
「私にはこんなすごい友達がいるんだ。困ったことがあったら私に相談しなさい」と言えるのがステータス。面倒見のいい日本の国会議員や企業幹部、秘書らの名刺は、彼らの人脈自慢に効果絶大といえる。
中国の情報機関は、勝ち組である共産党幹部らに接近したがる在日中国人のメンツを操り、彼らと懇意な国会議員や企業幹部、秘書らを紹介させたり、利用したりする。無自覚のうちに、中国共産党の触手となって情報収集の手伝いをしたり、中国の代弁者となっている日本人は多い。
一部メディアが、1等書記官の個人的蓄財を取り上げて「単なる金もうけ」などと、スパイ疑惑を否定するような報道をしていた。中国人は表の仕事をしながら副業でも稼ぐ。おまけに中華民族は公私混同が甚だしく、これはスパイも変わらない。
私は、某党議員の公設秘書が、中国の情報機関とつながっているとの情報を入手している。この議員事務所は、永田町に築かれた中国の情報収集基地の可能性がある。
国家観や危機感なき議員やメディアの罪は深い。
■坂東忠信(ばんどう・ただのぶ)
宮城県生まれ。警視庁巡査を拝命後、交番・機動隊勤務などを経て、通訳捜査官・刑事として、数多くの中国人犯罪捜査に従事する。2003年、勤続18年で警視庁を退職。その後、ノンフィクション作家として執筆・講演活動に入る。著書に「日本が中国の自治区になる」(産経新聞出版)、「日本は中国人の国になる」(徳間書店)など。