【今日の突破口】ジャーナリスト・東谷暁
ギリシャの再選挙が近づいているが、たとえ財政緊縮派が政権を取っても、いまの国内情勢からして短命だと予測されている。EUはギリシャに対してユーロ圏にとどまるなら財政緊縮を進めろと要求し、ギリシャ国民の約7割がユーロ圏にはとどまりたいが、一時的にせよ財政緊縮派への支持は約3割まで下落した。
これは明らかに矛盾した非合理的選択のように見える。しかし実は、ギリシャ国民は、そんなふうには思っていないのかもしれない。
もし、ギリシャがユーロ圏から離脱すれば、旧通貨ドラクマに戻ることになるが、そのときギリシャ経済に対する評価から、ドラクマが下落するのは火を見るより明らかだ。となれば、ギリシャの対外債務は急増して債務不履行が起こり、ギリシャ国債を買い込んでいるEU内の金融機関は経営危機に陥る。それが嫌なら、EUはギリシャを救済しろということになる。これは明らかに「弱者の恫喝(どうかつ)」というべきもので「われわれは弱い立場にあるが、もし、われわれを破綻させてしまえば、あなた方も甚大な損害を被る。その甚大な損害に耐えられるならやってみたらいいだろう」という脅しである。
もちろん、ギリシャ国民全部がこのように戦略的に考えているわけではなく、なかには単に僥倖(ぎょうこう)を望んでいる人間もいるだろう。また、ただ自分たちのいらだちを選挙に叩(たた)きつけている者もいるかもしれない。こうした国民心理も織り込んで、ギリシャ急進左派連合は勝機もあるとして賭けに出ているのである。
これは何かに似ていないだろうか。民主党内の小沢一郎(元代表)派は大きいとはいえ党全体からみれば主流ではない。とはいえ、小沢派が民主党の消費税増税に反対することで、その立場は弱まるのではなく強まるのである。そのことで、小沢氏はギリシャ急進左派およびギリシャ国民のように居直りが続けられるわけだ。
しかし、こうした「弱者の恫喝」は、あることを前提としている。それは駆け引きの相手が、合理的選択をするという前提である。ドイツやフランスが、金融危機なんかどうでもいいと憤慨して(あるいは大過ないと見誤って)ギリシャを見捨てることは十分にありうる。また、野田佳彦首相が、日本はギリシャと同じだと思い込んで(あるいは妄想して)自民党に大幅な妥協をしつつ増税に踏み切り、小沢派が民主党を割ることは阻止しないかもしれない。
ギリシャ問題については、今月17日に再選挙があるから、少なくともそれでひとつの結論は出るが、もうすでに、目先の利く有名経済学者のポール・クルーグマンなどは、世界的な金融危機を示唆している。
ところで日本はどうだろう。ここまで述べてきたなかで、最も奇妙なのは誰だろうか。それは消費税増税を強行しようとしている野田首相と、条件付きで認めようとしている自民党の谷垣禎一総裁なのである。
この政治家たちはギリシャの動向にかかわらず世界が二番底を迎えようとしている今、不況を加速する増税を必死に画策している。たとえ反対が多い国民の意思を無視して国会を通過させても当面は凍結だろう。これは僥倖待ちのギリシャ国民にすらない呆(あき)れた非合理的選択ではあるまいか。
(ひがしたに さとし)