傲慢な中国外交の危うさ。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 










【世界のかたち、日本のかたち】





「フィリピンのような小国は大国をばかにすべきではない」

 中国外交の実力者、戴秉国・国務委員が先月、中国人民対外友好協会の会合でそう発言したという。中国とフィリピンが領有権を争う南シナ海のスカボロー礁(黄岩島)付近で、両国の艦船がにらみ合いを続けていることが念頭にある。

 報道によれば戴氏は、この発言の前に、急速に発展する中国は他国を怖がらせてはいけない。発展すればするほど、謙虚になるべきだ。小国、大国を問わず、相手に対して傲慢になってはいけない、と中国外交にいま最も必要と思われる心得を述べている。だがそれに続けて、冒頭のような発言になったらしい。

 老練な外交官が、謙虚の心得を説きながら、そういう発言で傲慢さを感じさせてしまうのはどうしたことか。近年の中国外交における危うさの一例を見る気がする。

 中国から見れば、確かにフィリピンは小国だろう。だがこの小国は、超大国、米国の同盟国でもある。そしてその米国は、南シナ海を「核心的利益」とする中国に警戒の念を強めている。

 一昨年の7月、ハノイで開かれた東南アジア諸国連合地域フォーラム(ARF)の席上、クリントン米国務長官は、南シナ海の「航海の自由」を米国の国益として強調した。2つの点を注意すべきだろう。

 1つは、「航海の自由」が、海洋国家米国にとって、歴史的にまさに「核心的利益」と呼べるような外交原則であること。たとえばこの原則は、米国が20世紀になってそれまでの「孤立主義」、すなわちヨーロッパ権力政治に対する不介入の伝統をうち捨てて、第一次世界大戦を戦った理由の一つだった。

もう1つは、今年初めに出された米国防総省の文書(「米国グローバル・リーダーシップの維持」)にもあるように、米国の安全保障および経済の利益は「西太平洋と東アジアから、インド洋地域と南アジアに続く弧」の発展と分かちがたく結びついている、という戦略判断を米国政府が固めていることだ。そのため2つの大洋をつなぐ南シナ海の「航海の自由」は、原則だけでなく実質の面でも重要さを増している。

 米国は、周辺諸国の利害が絡み合う南シナ海の領有権問題そのものには中立の姿勢をとっている。たとえ同盟国であっても、スカボロー礁の帰属の問題で、フィリピンのために戦いたくはないと思われる。

 だが中国が、その海軍力を背景にして同盟国フィリピンを外交的に屈服させるような事態は防ぎたいと考えて動くだろう。そういう事態になれば、地域内の諸国から、南シナ海の「航海の自由」を唱える米国の本気度を疑われてしまうからである。

 また万一、この問題が武力衝突に発展すれば、米国にはフィリピン防衛の義務(米比相互防衛条約上の義務)が発生するかもしれない。たとえばフィリピン政府の艦船が武力攻撃を受ければそうなる。

 もしそうなると、安保条約でフィリピンを含む「極東」の平和と安全の維持に米国と共通の関心を持つ日本にとってもよそ事ではなくなる。だから中国にはこう望みたい。

 「フィリピンを小国だと思ってばかにすべきではない」

                         (大阪大教授・坂元一哉)