【消えた偉人・物語】正しく教え「伝統と文化を尊重」
すでにほとんどの国民は、祝日と祭日の違いを説明することはできないはずだ。「ハッピーマンデー」の導入によって、祝祭日の意義に思いをはせる機会は確実に消滅している。それどころか、月曜日の授業回数の不足を補うために、大学では祝祭日に授業をすることが常態化しつつある。
もっとも、祝日と祭日の意味を説明できないことは必ずしも責められない。戦後の学校教育では祝日・祭日の意義を教えられることはなく、教科書のどこにも書いていないからである。
戦前の教科書は違った。修身教科書では、「祝日・大祭日」「春から夏へ」「秋から冬へ」「新年から春へ」などの項目で、祝日・祭日の由来と意義が詳しく記述されていた。
例えば「祝日・大祭日」では、11月23日の新嘗祭(にいなめさい)を次のように説明している。
「此の日には、宮中の新嘉殿(しんかでん)で、神々に初穂をお供へになつて、天皇陛下御みずから、新穀を召上ります。(中略)祝日と同じく、我が国にとつてまことに大切な日で、宮中では、天皇陛下御みずから、おごそかなお祭をあそばされます。ことに新嘗祭には、霜の白く置く頃の寒い夜を明け方にかけて、御みずから、ごていねいに神々をお祭りになり、今年の秋のみのりのお礼を、神々に申し上げさせられます」
修身教科書での祝日や大祭日の記述は、「国旗」「君が代」などの項目との関連も強く意識された。
「祝日・大祭日」も「私たち臣民は、祝日・大祭日が我が国にとつてまことに大切であるいはれをわきまへ、我が国がらの尊いことを思ひ、忠君愛国の精神を深くしなければなりません。そうして、其の日には、国旗を立てて真心をあらはさなければなりません」と結んでいる。
教育基本法第2条には、「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」ことが規定されている。祝日と祭日の由来と意義を正しく教えずに、「伝統と文化を尊重」することはできない。また、歴史と「わが国がら」の尊さを教えることなしに、「我が国と郷土を愛する」心を育てることも不可能である。
(武蔵野大学教授 貝塚茂樹)
尋常小学修身書巻三の「明治節」