海監も漁政も中国海軍の手駒だ。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 










【正論】「尖閣」危機 防衛大学校教授・村井友秀





尖閣諸島周辺の日本領海内に最近、中国漁船に続いて、中国政府の漁業監視船や海洋調査船が徘徊(はいかい)・漂泊するようになった。中国では、漁船も海上民兵として海軍の指揮下で行動することがある。それでは、中国公船と海軍との関係はどうなのか、考察する。

 ≪軍の意向が党通じ国家動かす≫

 中国共産党政権は「鉄砲から生まれた」といわれるように、戦争の中で軍の力によって成立した政権であり、中共政権における軍の影響力は絶大である。現在の中共政権の政治構造をみると、共産党が最高権力機関であるが、軍の最高機関である中央軍事委員会は、共産党の最高機関である政治局と並立する機関である。中央軍事委員会主席は胡錦濤氏、政治局のトップも、党総書記にして国家主席の胡氏である。軍と党が並立し、党の下に政府が存在する構造である。政府(国務院)は党の決定を実行する機関に過ぎない。

 中央軍事委員会は、10人の軍人と2人の文民(胡主席と習近平副主席)で構成されている。軍人の委員の内訳は、副主席2人、国防部長、総参謀長、総政治部主任、総後勤部長、総装備部長、海軍司令官、空軍司令官、第二砲兵(ミサイル)司令官である。

 胡主席と習副主席は軍事専門家ではなく、中央軍事委での軍事に関する議論では軍人が強い影響力を持つ。毛沢東やトウ小平は文民指導者であると同時に実戦で軍隊を指揮した経歴があり、軍人に対し強いカリスマ性を持っていた。胡氏の前任の党総書記兼国家主席の江沢民や胡氏には軍歴がなく、軍人への影響力は限られる。

他方、政治局では胡氏は最大の影響力を持つ。したがって、軍人の強い影響下でなされた中央軍事委決定は、胡主席の意向として政治局内で強い影響力を持つ。つまり軍の意向が党の意向として国家を動かしているのである。

 ≪外交部などは軍に逆らえず≫

 政府の一機関である外交部や国家海洋局も、政府を通じた党決定に従って行動する。中国では、党と並ぶ権力を持つ軍が、党の下にある政府の一機関である外交部を無視することはあっても、外交部が軍の意向に逆らうことはあり得ない。同様に、政府の一機関の国家海洋局が軍の意向を無視して行動することもあり得ない。

 国家海洋局は1964年、「国防と国民経済建設に服する」機関として創設され、制度上は政府の管轄下に置かれながら、海軍が実質的に管理してきた。82年に国連海洋法条約が採択されると、中国は海上保安機関を強化して、90年代には、国土資源部国家海洋局中国海監総隊(海監)、農業部漁業局(漁政)、公安部公安辺防海警総隊(海警)、交通運輸部中国海事局(海巡)、海関総署密輸取締局(海関)を組織した。

 海警は海軍のミサイルフリゲート艦を改造した巡視船を保有し、漁政は、海軍の潜水艦救難艦を改造した「漁政311」やヘリコプターを2機搭載できる「漁政310」を保有する。漁政は南シナ海でインドネシア、ベトナム、フィリピンの漁船、巡視船や海軍の艦艇を威嚇し発砲している。

 海監は国家海洋局の命で、中国の管轄海域を巡視し、中国の海洋権益に対する侵犯、海洋資源と環境を損なう違法行為を発見し排除することを任務とする。「海軍の予備部隊として、平時は違法行為を取り締まり、戦時は軍に編入される」ことになっている。

≪防衛力の縮小は侵略を誘う≫

 2009年には、中国海軍、中国公船、漁船が共同して、米海軍調査船の活動を妨害するという事件が発生した。国家海洋局海監総隊常務副総隊長は、「国際法上、係争海域に関して2つの慣例がある。第一はその場所が有効に管理されているか否かであり、第二は実際の支配が歴史による証明に勝るということだ」「中国海監は管轄海域内で必ず自身の存在を明示し、有効な管轄を体現しなければならない」と述べている。

 尖閣諸島周辺を遊弋(ゆうよく)し、中国の実効支配を誇示することは、海監の重要な任務なのである。

 中国の末端組織はバラバラに行動しているように見えることがあるが、それは右手と左手の動きの違いにすぎず、頭は一つだ。中国の頭は共産党であり軍である。中国軍は合理的な組織で、コストが利益を上回ると判断すれば行動を止める。日本の防衛力が強化されれば中国軍のコストは上昇し、軍事行動に出る動機は小さくなる。逆に日本の防衛力が縮小すれば、中国軍のコストは低下し軍事行動の魅力は増大する。日本の防衛力縮小は中国に軍事行動を取るよう挑発しているようなものだ。

 侵略を撃退できる十分な軍事力に支えられた、「尖閣諸島は日本の核心的利益である」という日本政府の強い決意表明は、中国軍の思考回路に影響を与える。

 「大きな棍棒を持って、静かに話す」(セオドア・ルーズベルト米大統領)というのが、古今東西の外交の基本なのである。

                             (むらい ともひで)