【40×40】笹幸恵
元来、人前で話すことが苦手である。年に何度か講演を頼まれるようになった今でも、時折逃げ出したい衝動にかられる。つたないながらも話を終えられるのは、戦没者の声なき声を伝えたいという祈りにも似た感情と、こんな若輩であっても話を聞こうと思ってくれる人々に何とかして応えたいという一念からである。しかしたいていの場合、「もっとうまくできたのではないか」と、後悔と自己嫌悪にさいなまれる。
ところが先日、不思議とそれがなかった。航空自衛隊の防府南基地で、入隊したばかりの700人の隊員に向けて話をしたときである。うまく話ができたからではない。航空教育隊の高橋芳彦司令をはじめとする司令部の人々の「おもてなし」があったからだ。
おもてなし、といっても、お世辞を並べて持ち上げるのではない。ひと言でいうなら誠実さだ。彼らは、ほぼ全員が事前に私の経歴を調べていた。それを踏まえ、前日の懇親会では、どんな理由で講話を楽しみにしているかを一人一人が披露してくれた。翌日、講話を終えた後の昼食会では、話の中で印象に残った点や疑問点など、具体的で踏み込んだコメントを寄せてくれた。ある人は、聴講していた隊員に「どうだった?」と講話直後に感想を求め、それも昼食会の席上で報告してくれた。打てば響く、とはこのことだ。
講演に行くと、イベントを形式的にこなしているだけの印象を持つことがある。当たり障りのない感想だけで、主催者側がなぜ私を呼んだのか、わからないまま終えることも少なくない。けれど今回は違った。きちんと向き合おうとしてくれている誠実さが何よりうれしかった。
講話後、自己嫌悪よりもすがすがしさが心を占めたのは、彼らのホスピタリティーの高さゆえだ。相手の立場に立つとはよく言われるが、それがいかに難しいことか。何より想像力が必要で、手間がかかる。それをさらりとこなす彼ら。翻って、自分はどうか。果たして誰かに「おもてなし」ができているだろうか?
(ジャーナリスト)