時速140キロの硬式野球ボールの衝撃度は、高さ150メートルの東京タワーの展望台からボールを落として受けるのと同じだという。頭を直撃すれば、命にかかわる。英語のhit by pitch(投手により当てられる球)より、訳語の「死球」の方が実態に即している。
▼その死球が故意に行われたときが、野球規則の定める「危険球」だ。もっとも投手の心のなかまで、だれにものぞけない。プロ野球では、審判が打者の選手生命に影響を与えると判断すれば危険球とみなし、投手は退場となる。
▼ボールよりはるかに危険な自動車が集団登校中の小学生の列に突っ込み、またもや悲惨な事故を引き起こした。京都府亀岡市の府道で、付き添っていた妊娠7カ月の女性と2年生の女児の命を奪ったのは、無免許運転の少年(18)だった。
▼少年は、同乗していた遊び仲間の2人とともに前日の夜から一睡もしておらず、事故当時は居眠り状態だった。インターネットに、趣味を「ドライブ」と書き込んでおり、無免許運転を繰り返してきたようだ。これほど悪質な事故にもかかわらず、少年は、刑の上限が懲役7年にすぎない自動車運転過失致死傷の疑いで送検された。
▼専門家によれば、最高で懲役20年の危険運転致死傷罪を適用するのは難しい。居眠り運転は、通常「故意」ではなく、「過失」とみなされるからだ。一晩中運転していたとすれば、罪の要件のひとつ「運転技能がない状態での運転」にもあてはまらない。
▼東名高速で13年前、酒酔い運転のトラックに追突されて乗用車が炎上、幼い2人の姉妹が亡くなった。事故がきっかけとなって創設された罪が抜け穴だらけでは、悲劇は終わらないだろう。