【世界のかたち、日本のかたち】大阪大教授・坂元一哉
■ポスト「戦後」の防災と防衛
米国をはじめ連合国48カ国との戦争を終わらせたサンフランシスコ平和条約が発効してから、この28日で60年になる。平和条約で国際社会に復帰した「戦後」日本が、戦前に勝る繁栄を享受したことはあらためて言うまでもない。
だが「戦後」が還暦を迎えようとするいま、日本の眼前には、その繁栄の基盤である安全を根底から脅かす2つの脅威が存在する。
1つは防災上の脅威。われわれは東日本大震災によって、日本が巨大地震を含む地震多発の国であることを再確認した。
科学者によれば、「戦後」日本が復興と高度成長を果たした約半世紀は、巨大地震がほとんど起こらない「地震静穏期」だった。それが平成7年の阪神・淡路大震災以後、「地震活動期」に入ったという。
しかし「活動期」に入った後も多くの国民は、「静穏期」の感覚を持ち続けたようだ。藤井聡・京大教授は、国民が「戦後」の「静穏期」に慣れてしまい、「天変地異という有事」に対しても「平和ぼけ」になったという趣旨の指摘をする(『列島強靱(きょうじん)化論』文春新書)。
むろんこれからは、そうであってはならない。日本列島が「地震活動期」にあることを自覚し、数十年以内に再来すると予想される巨大地震への備えを固める必要がある。
ただそれは容易なことではない。先日、政府の検討会が公表した南海トラフ地震の想定は、震度7(震度階級の中で最大)の揺れ、20メートル(場所によっては30メートル強)以上の津波が多くの市町村を襲う、という衝撃的なものだった。
もう1つ、日本は防衛上の脅威にも直面している。防衛に関する「戦後」日本の安全は、潜在敵に対する日米同盟の戦略優位、とくに海空軍力の優位によって守られてきた。
しかしいま隣国中国は、過去20年間で19倍に膨れあがった軍事費を背景に、海空軍力の急速な拡大をはかり、日米同盟の優位を脅かしつつある。すぐに逆転するというわけではないが、中国の軍拡が続き、日米同盟側が対応を怠ればそうなってしまうかもしれない。
また、たとえ逆転せずとも、一昨年の尖閣沖漁船衝突事件に見られるように、海空軍力を強化した中国の態度は高圧的(防衛白書)になりつつある。日米同盟の優位が揺らげば、その高圧的態度が増し、尖閣諸島付近などで偶発的な軍事衝突が発生することも懸念される。
中国の軍拡に加えて、北朝鮮の核とミサイルも日米同盟を脅かす。合理的な相手なら、この核とミサイルは同盟の抑止力で十分対応できる。しかし、北朝鮮のような合理性に不安のある独裁国家が相手の場合、万一に備えての防衛手段が欠かせない。だが、今回の北朝鮮のミサイル発射実験への備えを見てもわかるように、ミサイル防衛の完備にはまだかなりの時間と努力がいる。
ここにあげた防災と防衛、2つの脅威はどちらも重大で、対応には相当の覚悟、努力、コスト負担が求められる。「戦後」日本の生ぬるい安全保障感覚ではとても対応できない脅威だと思う。その意味で、少なくとも安全に関することでは、すでに「戦後」が終わり、ポスト「戦後」時代が始まっていると考えた方がよいかもしれない。
(さかもと かずや)