【主張】教科書検定
来年春から高校で使われる教科書の検定が終わった。この中で、大阪府などが進めている国旗掲揚や国歌斉唱の義務づけを「強制」と表現した教科書が合格した。
学習指導要領に基づく教育を行うための取り組みを「強制」とする記述は問題だ。今からでも記述を正すべきである。
実教出版の日本史Aでは国旗国歌法を当初、「政府は、この法律によって国民に国旗掲揚、国歌斉唱などを強制するものではないことを国会審議で明らかにした。しかし現実はそうなっていない」と記述した。検定では「しかし」以下を「一部の自治体で公務員への強制の動きがある」と修正し、これがパスしたという。
特定はしていないが、教職員に国歌斉唱時の起立を義務づけた大阪府や大阪市の条例化の動きを指すことは明らかだ。文科省は「誤った記述とまでは言えない」としているものの、生徒に誤った見方や印象を抱かせる恐れが強く不適切な表現といわざるを得ない。
学習指導要領は、国旗、国歌への正しい認識を生徒が身につけるよう指導を義務づけている。最高裁も式典で教師に起立を促すよう命じる職務命令を「合憲」とした判決を下した。
にもかかわらず、教科書がこんな記述では生徒に正しい指導などできない。文科省が行っている指導との矛盾も明らかで、教育現場への影響が心配される。
一方、山川出版社が日本史Aで南京事件の記述を見直した。犠牲者数に諸説あることを紹介し「その実情は明らかではない」としていた現行記述に、「学者のあいだでは、30万人説は誇大な数字と考えられている」と付け加えた。
中国の主張に明確に疑問を呈したものだ。他社の教科書が依然として「南京大虐殺」「大虐殺」といった表現で検定合格する中で最新の研究結果を取り入れた同社の記述には注目したい。
今回の検定では東日本大震災を踏まえた自然災害や原子力発電所事故に関する記述が取り上げられ、防災への記述も増えた。
検定で具体的記述が問題になることはなかったが、原発や放射性物質については、効用も含めて正しい知識を身につけることが極めて重要になる。学校現場では、安易に「脱原発」をあおるような教育に陥ることなく、バランスのとれた指導を求めたい。