【産経抄】3月14日 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 










何年か前、浪花節を聴いて思い切り泣かされた。「出世太閤記・報恩旅行」という曲である。関白にまで上りつめた豊臣秀吉が、最初に仕えた松下加兵衛や、自分を取り上げてくれたネネばあさんら世話になった人たちを訪ねる。その恩に報いるためだった。

 ▼中でもネネばあさんは子供時代、義父の冷たい仕打ちで家出した自分に、そっと冷や飯とみそ汁を食べさせてくれた。「この秀吉、出世するたび、思い出しては泣いたぞよ!」。そう言ってネネの手を握ると、客の方はもう涙が止まらないのだ。

 ▼どんなに偉くなっても、かけられた恩は忘れない。浪花節が訴え続けてきた日本人の大切な倫理である。しかし今、その浪花節が生きているのは日本より台湾ではないかという気がする。日本統治時代、ダムや水路を造った技師、八田與一を今も多くの人が敬愛するなど、「証し」は多い。

 ▼逆に日本、特に政府はもはや捨て去ってしまった。そう思わせたのが、11日の大震災一周年追悼式典での台湾への「冷遇」だ。台湾は大震災のさい、200億円を超える最も多い義援金を寄せてくれた。日本にとって、大切な「恩人」のはずである。

 ▼ところがその台湾を代表する羅坤燦・駐日経済文化代表処副代表を、来賓席でなく一般席に案内した。献花のさいにも指名献花から外し、一般参加者と同じ扱いにしたという。野田佳彦首相は「申し訳ない」と謝ったが、それではすまない失礼さといえる。

 ▼台湾を国と認めない政府の立場を杓子(しゃくし)定規に貫いたためだ。中国への「配慮」もあったに違いない。だが「恩に報いる」のは外交以前に国が守るべき徳目だ。厚遇して中国が何か言ってきたら、そう答えればいい。