新帝国主義時代がやってきた。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 










【湯浅博の世界読解】






19世紀末、米国は米西戦争を境にカリブ海の支配権を握り、太平洋の強国としても海軍の大拡張に乗り出した。その理論的指導者が『海上権力史論』を著したマハン提督である。

 新帝国主義の実践者はセオドア・ルーズベルト大統領で、アジア市場という果実を刈り取るため、強力な艦隊によって海洋支配に乗り出した。日本が日露戦争に勝利すると、ルーズベルトはにわかに日本に警戒感を抱き始めた。この頃から日米関係は急展開し、やがては「敗戦」という歴史の結末を知らされる。

 中国軍研究者によると、いま、中国海軍はこのマハンの海洋戦略を徹底的に研究して現代に応用しているという。「海の軍拡路線」をひた走り、南シナ海と東シナ海の制海権を確保しようとごり押しをする。

 先ごろ、発表された中国の2012年度予算の国防費は、前年実績比で11・2%増の6702億元で、米ドル換算でははじめて1千億ドルの大台に乗った。米欧の研究機関は多額の研究開発費などは含まれないから、実際にはその3倍近くになると試算する。

 いまどき19世紀のマハン戦略などと、あたかも新帝国主義のように21世紀に浮上してきた。米国は中国軍が南と東の両シナ海を「中国の海」に、米空母打撃群を遠ざける「接近阻止・領域拒否」(A2AD)戦略を採用したとみる。

それは1996年の台湾海峡危機からの教訓であろう。中国はこの年、台湾総統選挙を大軍事演習で威嚇し、米海軍が2つの空母打撃群を派遣して事なきを得た。これ以降、中国は米空母の接近を阻止する大海軍の近代化を加速させた。

 中国は米空母が再び接近すれば、対艦弾道ミサイル、潜水艦、あるいは自国空母で迎え撃つ。特に、弾道ミサイルを成層圏に飛ばして米空母の甲板で爆発させる新型を開発中だと米紙は指摘する。米艦の防御システムで迎撃するとしても、同時多発で発射されれば防ぎようがない。

 空母が撃沈されれば、最大で5千人の将兵が海に消える。その数は、イラク戦争の軍事行動の犠牲者よりも多いというから、さすがの米軍も慎重にならざるを得ないのだ。

 米国のランド研究所が昨年まとめた報告書「中国との衝突」によると、中国がこのまま軍拡路線をひた走ると、今後20年間で米国の国内総生産(GDP)と国防費を凌駕(りょうが)し、「対中抑止の努力を怠れば中国の野心がコントロールできなくなる」と警戒感を述べる。

 報告書はアジア域内の軍事衝突シナリオの一つとして朝鮮半島、台湾、南シナ海とともに「日本シナリオ」を挙げる。日中衝突の可能性は、東シナ海での偶発的な事故から武力衝突へとエスカレートする危険である。

四方を海に囲まれる日本は、制海権さえあれば島嶼(とうしょ)を含めて侵略を防ぐことができる。だが、米国の海軍力が無力化されると独力では太刀打ちできない。

 中国のA2AD戦略に対する米国の「エアシーバトル(空海戦闘)」戦略は、前方展開戦力の強靱(きょうじん)性向上と遠距離攻撃力の強化とからなる。その支えとなるのがオーストラリア軍事基地の兵站(へいたん)と自衛隊の戦力向上である。

 だが、日本は中国が軍拡をはじめた98年から防衛費は漸減傾向にあり、過去15年間はほぼ横ばいである。東アジア最大の懸念は、日本政府にその危機感が欠落していることなのだ。

                          (東京特派員)