シナの宇宙開発に遅れを取る日本の処方箋。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 







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2012.02.27(月)山下 輝男:プロフィール





1 はじめに

2011年11月4日(金)の報道によれば、中国は、小型宇宙実験室「天宮1号」(9月29日打ち上げ)と無人宇宙船「神州8号」(11月1日打ち上げ)の自動制御による初のドッキング実験に成功したという。

 宇宙開発の拠点として2020年ごろの完成を目指す大型宇宙ステーションの建設に向け、大きな一歩を踏み出した。サイバー空間と共に宇宙空間を、陸海空に次ぐ第4、第5の戦場と位置づけ、国家の総力を挙げての宇宙開発が着実にその成果を挙げていることを実証した。

天宮1号(ウィキペディア


  翻って、現時点においてすら中国の後塵を拝している我が国は、やっと宇宙基本法を制定・施行(平成20=2008年8月)したものの、その強力な実行には程遠い状況にある。

 60億キロの旅を終えて、イトカワ由来の微粒子を持ち帰ったハヤブサの世界的な快挙(2010年6月13日)に沸き立ったが、日中の差は益々増大し、気付いた時には、取り返しがつかない状況に陥っているのではないかと危惧している。

 ランチェスターの2次式以上の差が生じるのは自明である。

 本稿は、その様な問題意識のもと、中国の宇宙開発が向かう方向を明らかにし、我が国の対応について私見を述べる。

2 中国の宇宙戦略と開発状況概観

(1)最近の宇宙開発の状況

 平成23年版の防衛白書は以下のように指摘して強い懸念を表明している。

 「中国は宇宙開発の努力を続けており、これまでに国産のロケットを使用して各種の人工衛星を打ち上げたほか、有人宇宙飛行、月周回衛星の打ち上げげなどを行っている」

 「中国の宇宙開発は、国威の発揚や宇宙資源の開発を企図しているとの見方がある一方、宇宙開発においては軍事分野と非軍事分野が関連しているとみられることから、中国は、情報収集、通信、航法などの軍事目的での宇宙利用を行っている可能性がある」

 「最近では、複数の中国空軍幹部が、空軍として宇宙利用に積極的に取り組む方針を明らかにしている」

 「中国は対衛星兵器の開発も行っており、2007(平成19)年1月に弾道ミサイル技術を応用して自国の人工衛星を破壊する実験を行ったほか、レーザー光線を使用して人工衛星の機能を妨害する装置を開発しているとの指摘もある」

 2005年以降の中国の宇宙活動の主なものを挙げれば以下の通りである。

●2005年10月12日:神州6号打ち上げ(宇宙飛行士2人)
●2006年10月12日:宇宙白書発行
●2006年    :各種衛星(実践6号、中星22号、風雲2D)の打ち上げ

●2007年1月12日:衛星破壊実験
●2007年9月22日:海南島に第四の発射基地建設認可
●2007年    :各種衛星(嫦娥1号、北斗5機目、遥感3号)の打ち上げ

●2008年9月25日:神州7号(宇宙飛行士3人)

●2010年10月1日:嫦娥2号打ち上げ

●2011年9月29日:天宮1号打ち上げ
●2011年11月1日:神州8号打ち上げ
●2011年11月3日:天宮1号と神州8号のドッキング実験

(2)中国の宇宙開発(計画)の概要

ア 中国の宇宙開発の目的等

 中国の宇宙白書(2006年発刊したのみ)等によれば、長期的な目標としては次のようなものが挙げられている。

●宇宙科学分野における中国の地位の向上
●リモートセンシング技術の確立
●月への有人宇宙計画、有人月面基地の建設等

 そのための具体的事業としては、以下のようなものが挙げられている。

●長期的地球観測システムの確立
●独自の衛星通信ネットワークの配置
●独自の衛星測位システムの配置
●商業衛星打ち上げ事業の提供
●リモートセンシング技術の確立
●宇宙科学研究 
●月探査計画等

 自主開発による5大宇宙科学技術プロジェクトは、有人宇宙旅行、月探査、地球観測システム、ナビゲーションシステムの構築および大型キャリアロケットの開発とされている。

 これらを総括すれば、以下のように考えるのが妥当であろう。

◎自国の安全保障の強化
◎資源の獲得、宇宙ビジネスの拡大、新技術の獲得
◎地域への影響力の強化

 すなわち、米国の圧倒的優位を減殺し、対米優位少なくとも米国とのパリティ状態を獲得して2極の1極を形成せんとしていると考えるべきだろう。

イ 組織や基地等

 当初は、中国軍第二砲兵部隊の指揮下に置かれたが、軍需産業全体の再編成の過程で中国航天局が創設されて宇宙開発を担当している。製造部門としては、中国運載火箭(せん)技術研究院、中国航天工業公司があり、発射センターを管理する中国人民解放軍総装備部等がある。

 いくつかの著名な大学や研究所が密接に関わり、酒泉・西昌・太原の他に海南島に文昌衛星発射センターを建設中(2013年運用開始と報道)であり、これを併せて計4個の衛星打ち上げ施設を有している。監視・コントロールセンターや衛星追跡施設を国内及び国外各所に配備している。

ウ 衛星破壊(ASAT)実験

 中国は2007年1月11日、世界がスペースデブリの問題もあって自粛をしていた衛星破壊実験を行い、全世界に衝撃が走った。

1 実験概要

2007.1.11 高度850キロ KT-1ロケット
自国の不要気象衛星「風雲1号C」(1999)の破壊
○レーザー照射実験も?

2 反応

○諸外国 懸念表明
○米国:優位性に脅威 衝撃極めて大

3 展望

○長期にわたる研究の成果(初回実験2002.9 失敗)
○米国の牽制
○技術力の証明
○大国としての国際的認知獲得

 米国の受けた衝撃は並々ならぬものであったことが、関係者の反応から見て取れる。米国の絶対優位を覆しかねないものと捉えたのも当然であろう。

エ 航空宇宙開発関係費の推移(読売新聞記事)

 2011年11月4日付の読売新聞記事によれば、「中国の航空宇宙分野の研究開発費は国内総生産(GDP)の拡大と共に、09年には、01年の2倍以上となる170億元(約2070億円)に達した。」とある。(右の図)

オ 国際協力

 宇宙白書によれば、宇宙利用や科学分野の課題解決を目標とした多くの国との協力プログラムを推進している。2国間の宇宙協力には、共同プログラム、専門家交流およびシンポジウム開催、部品の共同開発、商業衛星の打ち上げサービスを行っている。

 中国が開発した長征ロケットを国際市場に投入し、外国製衛星の打ち上げにも成功している。

戦略的パートナー諸国との協力

●対独:1993年:JV設立Sinosat-1:95年開発契約、98年打ち上げげ (欧州との初協力プロジェクト)

●対欧州・仏:2003年の宇宙協力会議以降情報交換

ESA:Double Star program ClusterⅡ等の衛星計画
深宇宙探査計画、ガリレオ測位システムなどで協力関係

●対米:2003年NASAと会合

2006年4月:首脳会談 月面探査協力で合意
ASAT以降対話停止

近隣諸国との協力

アジア太平洋諸国との宇宙協力重視:欧米に対抗、アジアの盟主?

1992年:アジア太平洋宇宙技術協力シンポジュームを開催
1998年:小型多目的ミッション衛生及び関連活動への理解と協力に関する

覚書

2005年:アジア太平洋宇宙協力機構(APSCO)を設立、本部北京
国際協力のテーマ:地球観測や災害予防、環境保護、衛星通信、研究開発・応用、人材育成
AP-MCSTA(APSCOの前身):宇宙技術・応用の教育推進、訓練プログラム、修士プログラム等
南米・アフリカ諸国との協力(色はじまり)

○ブラジルとの協力
資源衛星プロジェクト
1999年10月:CBERS-1打ち上げげ成功、2基打ち上げ済み

○ナイジェリアおよびベネズエラ
軌道上渡しの打ち上げげ契約

アジア太平洋宇宙協力機構(APSCO)について

 中国が2008年12月に発足させた、中国、パキスタン、イラン、タイ、バングラデシュ、モンゴル、ペルーが署名したアジア太平洋宇宙協力機構条約を設置根拠とする連合宇宙機関である。

 アジア太平洋地域諸国が宇宙技術とその平和的応用分野の交流・協力を推進し、地域経済・社会発展と共同の繁栄を図ることを目的としている。6か国以外に数カ国がオブザーバーとして調印式に参加した。本部は北京にある。

 欧州宇宙機関(ESA)に次ぐ宇宙開発における地域的な協力を目的とする政府間国際機構であり、日本が主導するアジア太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF)の枠組みとは異なる。

カ 現在進行中の主要プロジェクトの展望

(ア)有人宇宙飛行:神州号

1 開発経緯

○機体:ロシアのソユーズを基本
モジュール構成(軌道モジュール、帰還モジュール、推進モジュール、結合モジュール)
1992.4 神舟計画(プロジェクト921)
○ 運搬ロケット:長征2号F
○ 打ち上げ: 1号~6号まで(6号機で第1段階終了)
○ 電子情報収集機能(ELINT)有?

2 構想

○まず小型宇宙ステーション次いで、長期滞在型の大型宇宙ステーションを
7~10号機:宇宙ステーション建設に向けた活動(8、9号機は無人、10号でドッキング)
○2008.10:神舟7号 搭乗員3人、船外(宇宙遊泳)、宇宙服の独自開発に成功
○2011.9.29:天宮1号打ち上げ
○2011.10.31:神舟8号打ち上げ

○2011.11.3:天宮1号と神舟8号ドッキング(4日も成功、17日神舟号帰還)
○引き続きドッキング等の継続
○2015~2020:有人飛行での宇宙ステーション

3 2007.10:ISS(国際宇宙ステーション:米、露、日、加、韓等16カ国)への参加打診との報道

4 実績と評価

計画通りに進捗

○ モデルプラス独自性
○ 再利用型採用せずカプセル回収型採用
○ 将来的には、宇宙往還機をも視野に
○ その場合には、技術的困難性に直面?

(イ)月探査:嫦娥計画

1 地位狙い等

○月面探査は次期の重要プロジェクト 月探査は国家の総合的国力の体現
○狙いは:月の鉱物資源(ウラン、チタン、ヘリウム3)、エネルギー、特殊環境利用、科学技術全体の牽引

2 計画概要

○探査・着陸・滞在の3段階の計画

(1)探査計画 (軌道周回→着陸→サンプルリターン)

軌道周回:月面探査機の打ち上げ
着陸:月面着陸、探査車
サンプルリターン:サンプルを帰還モジュールにて持ち帰る

(2)着陸計画:月面、各種実験

(3)滞在計画:月面基地の建設、宇宙飛行士の長期滞在

3 スケジュール等

嫦娥1号(ウィキペディア



○2007.10.24:嫦娥1号打ち上げ成功
○2010.10.1:嫦娥2号打ち上げ成功
○2012あるいは13年頃:月面軟着陸機(着陸&探査)
○2017 : 月面軟着陸:サンプル採取及び持ち帰り
○近い将来に火星探査、将来的には金星の探査

4 評価

○遠大なる計画
○米中の競争激化
○技術的向上、宇宙ビジネスの獲得、国威発揚
○多大なる困難性?

(ウ)地球観測システム

 帰還式遠隔探査衛星、気象衛星、地球資源探査衛星、海洋衛星、環境・災害モニタリング、通信放送衛星、科学探査・技術実験衛星等のリモートセンシング衛星の開発運用中であり、軍事偵察衛星ではないかと推測されているものもある。

 また、欧州との共同双星プログラムも進行中である。これらの細部は省略する。

(エ)測位システム

 測位システムは現代の軍・民にとって必要不可欠なシステムとなっている。米国のGPSシステム、欧州ESAが推進するガリレオ計画、ロシアが進めるグロナス計画、日本には米国GPSに依存しつつも、準天頂衛星計画がある。

 御多分に漏れずと言うべきか中国も北斗計画を推進しており、その概要は次の通りである。

○2000.10 北斗1号~ 8基稼働中(3+3の基本システム構成)
○2011.10 中国本土のほとんどをカバー
○2012:アジア・太平洋地区に向けたサービス提供可能
○将来的には24機体制

(3)中国の宇宙開発の特色

 中国の宇宙開発を概観したが、その特色を列挙すれば次の通りである。

1. 資源の集中投資
2. 軍主導(軍事的側面濃厚)、潜在的に軍事適用
3. 非公開性
4. 模倣技術からの脱却
5. 近年の加速傾向
6. 波及効果極めて大
7. 経費負担(所要)大
8. 積極的な国際協力枠組み作りや参加による参加国の囲い込み(CAPSCO、防災情報、コンステレーション)
9. 商業ビジネスへの積極的参入(APSTAR、双星、CBERS)
(4)今後の展望と評価

 中国は、国威の発揚、国際社会での発言力の強化、自国の安全保障の強化を主たる狙いに、世界第2位の経済力を背景に、宇宙開発を強力に推進しており、当面かかる状況が継続するであろう。

 米国の台湾有事や日本有事へのアクセス拒否能力を高め、あるいは、アジア太平洋地域への影響力強化を引き続き継続して地域覇権を獲得するものと思われる。また、米国とのバーゲニングパワーとしての宇宙能力の増強も重要な思惑であろう。

 将来的には宇宙軍を創設するとの可能性を指摘する識者もいる。

2 我が国の宇宙への対応

 平成8年8月、画期的な宇宙基本法が成立した。

 それまで基本的な戦略もなく、ただ宇宙技術のキャッチアップのみに邁進してきた日本にとって、あるべき宇宙政策を方向づけ、宇宙の利用が制約されてきた安全保障分野も一気呵成に改善されるかと思いきや、政治の混迷で停滞している。

 本項では、我が国の宇宙開発と宇宙戦略について述べる。
(1)宇宙基本法の成立

ア 宇宙基本法成立までの日本の宇宙開発状況等

 第2次大戦終了後から、米ソ両国は、宇宙の利用・開発に資源の集中投資を行い、熾烈な競争を展開した。その状況は記憶に新しいところであろう。

 一方、我が国は、宇宙後発国として、米ソのレベルに追い付き・追い越せを至上命題に、何よりも技術的なキャッチアップを優先せざるを得ず、研究開発に重点が置かれた。

 しかしながら、宇宙の研究開発中心から、宇宙をいかに利用・活用するかへの国際的な潮流の変化、冷戦の終焉、宇宙の産業としての有用性の認識の拡大と我が国の競争力の決定的な遅れ、我が国のミサイル防衛の必要性、そして何よりも日本の総合的な宇宙戦略(政策)の欠如が問題視された。

 宇宙の平和利用決議に内包する問題点や、自衛隊の衛星利用に関する制約や米国製衛星を調達せざるを得ないような日米合意等も有り、日本の宇宙政策を見直し、宇宙政策のあるべき姿を明確にした「宇宙基本法」の制定の気運が起こった。

 2004年末頃から自民党が検討に着手し、次いで自・公の調整協議を経て2007年6月に宇宙基本法案を国会に上程した。

 事後、与野党協議が行われ、2008年(平成20年)5月成立、8月施行された。

宇宙平和利用決議(1969年5月9日衆議院本会議)

(我が国における宇宙の開発及び利用の基本に関する決議)

 我が国における地球上の大気圏の主要部分を越える宇宙に打ち上げられる物体及びその打ち上げロケットの開発及び利用は、平和の目的に限り、学術の進歩、国民生活の向上及び人類社会の福祉を図り、あわせて産業技術の発展に寄与すると共に、進んで国際協力に資するためにこれを行うものとする。

イ 宇宙基本法の概要

 宇宙基本法の骨子は以下の通りである。

1 宇宙開発利用に関する基本理念

1.1 宇宙の平和的利用

 宇宙開発利用に関する条約その他の国際約束の定めるところに従い、日本国憲法の平和主義の理念にのっとり行われるものとする

1.2 国民生活の向上等

 国民生活の向上、~、・・・、我が国の安全保障に資する宇宙開発利用の推進

2 宇宙開発利用の司令塔(宇宙開発戦略本部の設置、宇宙基本計画の策定)

3 基本的施策

3.1 国民生活の向上等に資する人工衛星の利用

3.2 国際社会の平和・安全の確保、我が国の安全保障に資する宇宙開発利用の推進

3.3 その他割愛

4 体制見直し検討

4.1 宇宙活動に関する法制の整備

4.2 総合・一体的な推進のための行政組織の在り方等

 安全保障に関連する事項は太字で示している。すなわち、国会決議と本邦との差異は明確である。日本が批准している宇宙関連条約は、宇宙空間の軍事利用を禁止していない。

 また、憲法との関連では、専守防衛の解釈としても「専ら他国領土を攻撃することを目的とした兵器は禁止していない」のであり、防衛的な宇宙兵器の保有は許されるとされる。

ウ 宇宙基本計画の策定:2009年6月

 「安全保障の強化」や「宇宙外交の強化」など目指すべき6つの方向性を示し、その為の具体的なプログラムを例示している。そのプログラムは次の通りである。

6つの方向性実現のための具体的なシステムプログラム

○5つの利用システムの構築

・アジア等に貢献する陸域・海域観測衛星システム
・地球環境観測・気象衛星システム
・高感度情報衛星システム
・測位衛星システム
・安全保障を目的とした衛星システム

○4つの研究開発プログラムの推進

・宇宙科学プログラム
・有人宇宙活動プログラム
・宇宙太陽光発電研究開発プログラム
・小型実証衛星プログラム

エ 宇宙基本法制定後の動き

 我が国の宇宙戦略の大転換を狙いとした宇宙基本法は、宇宙の安全保障分野での積極的利用を提唱していると言える。

 防衛省は、宇宙基本法の成立を受けて、2008年8月29日、宇宙開発利用促進委員会を設置して議論を進めた。2009年1月15日「宇宙利用に関する基本方針」を決定した。意義及び施策は次の通りである。=つづく。