金正恩氏が中国の胡錦濤国家主席と握手する条件。
http://sankei.jp.msn.com/world/news/120226/kor12022607010001-n1.htm
金正恩体制が動き出した。故金正日総書記の生誕70周年を祝い、4月中旬には党代表者会を招集すると予告した。米朝協議も再開して内外に新体制の安定性をアピールしている。しかし、金正恩氏の元首ポストはまだ決まっていない。金正恩氏の党総書記就任はいつか? 中国を訪問し胡錦濤国家主席と握手するのか? 順調にみえる新体制だが、依然としてナゾも多い。
(久保田るり子)
訪中はいつ?
新体制で注目されるのが金正恩氏の訪中だ。
韓国の情報機関によると、中国は金正恩氏が登場した2010年秋以降、訪朝した中国高官が口頭で招請するなど昨年4月末までに4回の訪中招請を行った。その後の金正日訪中(2011年5月、8月)を合わせると招請は6回以上にのぼるという。後継者招請の当初の目的は世襲体制の見極めだったとみられる。
現在は状況が変わった。これからの中朝首脳会談は同盟国の首脳外交となり、金正恩氏には元首ポストが必要条件となった。中朝両国の場合、中国共産党、朝鮮労働党による伝統的な党関係であるため、金正恩氏がまず党総書記に就任する必要がある。
中国側の手続きは済んでいる。金正日死去後、胡錦濤氏がいち早く在北京北朝鮮大使館を訪れて弔問し、北朝鮮の世襲による権力継承支持を表明した。あとは準備を整えた金正恩氏の訪中を待つばかりだ。
金正恩氏の現在の肩書は最高司令官と朝鮮労働党中央軍事委員会副委員長のふたつ。元首級ポストは党総書記、党中央軍事委員会委員長、国防委員長-のいずれかだが、国防委員長は最高人民会議、中央軍事委委員長は党政治局会議での選出だ。党総書記は党大会の代わりに党代表者会でも推戴(すいたい)することができる。このため代表者会開催の予告が、金正恩氏の「総書記就任は秒読み」との根拠となった。
金正恩氏が4月に総書記に就任すれば、条件的に訪中も現実的になり、金正恩氏と胡錦濤氏が握手すれば「中朝新時代」のアピール効果は大きい。
「促成仕立てのリーダーは対中依存から抜けられない」
しかし、金正恩氏の総書記就任は「5分5分」という見方もある。
それは金正恩氏の党職があまりに不十分で、指導者に就任する手順が進んでいないためだ。党での肩書は中央軍事委でのものだけ。党の重責を負う中央委員会政治局の常務委員どころか政治局員でもなく、政治局員候補でもない。また金正恩氏は最高人民会議の代議員でもない。金正日氏の場合、74年に政治局員、80年に常務委員、中央委書記局書記などに就任し、82年に代議員になっている。
新体制が党中心の集団指導体制であるなら、少なくとも政治局入りし、総書記就任-という段階を踏むのではないかとの見方だ。
しかし、一足飛びに元首ポストに就任するのでは、との分析は根強い。この背景には、近年2年で中国傾斜をさらに強めた北朝鮮の事情がある。政権基盤の不透明な新体制を担保するには、中朝関係強化が急務との見方だ。
経済制裁下の北朝鮮は2011年、対中貿易額が前年対比で60%以上も急増し56億3000ドル(約4300億円)となった。
韓国貿易協会の調べでは、鉱物資源などの対中輸出の107%増に比べ、中国からの輸入は39%増。統計に反映しない住民往来の市場経済も含めると「品物の8割以上が中国製」といわれる北朝鮮の対中依存。金正恩体制ではこの傾向がさらに強まるとみられているためだ。
注目の側近人事、だれが失脚するのか…
党代表者会では金正恩体制の新陣容にも関心が集まっている。現在の党幹部陣容は故金正日総書記が決めた2010年秋の党代表者会で敷かれた体制だ。幹部のほとんどは金正日側近をそのまま登用、旧幹部であるため高齢者が多い。政治局常務委員の3人のうち2人は80代、残る一人が中央軍事委副委員長の李英浩氏(68)である。今回、人事で若返りなど「金正恩色」がでるのかどうか。
ナゾもある。軍の最高幹部でありながら党職を与えられていない呉克烈・国防委員会副委員長の処遇や、側近中の側近とされる張成沢・国防委員会副委員長の党職の扱いだ。
党代表者会と金日成生誕100年行事は4月に相次いで行われる予定で、ここでもうひとつの注目点は幹部序列からの「失脚者」である。
北朝鮮ではこれまで金日成国家主席、金正日総書記の政権初期に必ず行われてきたのが幹部の粛清だ。対立や派閥、嫉妬や裏切り。北朝鮮の専門家は「政権の安定性と抗争の有無は、まず失脚者をみて観察する」と話している。