大学入試の抜本的改革を。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 









【解答乱麻】桜美林大教授・芳沢光雄





今年の大学入試センター試験ではトラブルが多発し、複雑になったシステムの見直しを求める動きが表面化した。ただ、そうした動きは皮相なものだ。私は日本の将来を考え大学入試全般の抜本改革を訴えたい。

 センター試験の前身、共通一次試験が昭和54年に導入された目的は、入試に特化した学習の解消だった。しかし、目的は曖昧となり、平成2年、共通一次試験はセンター試験に引き継がれる。どちらも全問マークシート形式の設問形式のみである。最近の大学入学者の約7割は、推薦入試かAO入試かマークシートの試験だけであり、全体として「論述力」の軽視が否めない。ディベート力がものをいう国際化の時代にもマッチしていないのだ。

 マークシートの数学問題では、文字変数に具体的な数字を代入したり試験範囲等の条件から、問題自体は解けないのに答えだけが瞬時にばれることが多々ある。作問者側は悪問でも“裏技”排除を心がけてはいるが、受験者側は素早く答えを当てる技術を学ぶ状況となっている。

 平成16年1月、文部科学省が発表した全国の高校3年生10万人の学力調査結果では、ヒント付きの簡単な証明問題でも6割以上が無回答だった。また同年2月に行われた千葉県立高校入試の国語で、地図を見ながら道案内を書く問題が出題されたが、半数が0点だった。試験とは答えを当てればいいというものではない。答えを導き出すプロセスこそが問われるべきなのだ。これらの事例を踏まえれば、答えを導く試験を重視すべきである。

第2次ベビーブーム世代が受験した平成2年前後の大学数は約500校だったが、高校生が半減した現在の大学数は約800校である。「ゆとり教育」も加わって、大学生の学力格差は一気に拡大した。企業の新卒者の採用では最近、「どこの高校を卒業したか」「何の入試で大学に合格したか」を参考にする傾向が強まっている。また、企業の採用試験で広く用いられる適性検査問題は算数が中心で、その対策用問題集の中身は「時間と距離と速さ」「原価と利益」「表やグラフの見方」などの算数の文章問題なのだ。

 数学が苦手な学生に「就活のための算数復習授業」をボランティアで2年間行った。一切の単位認定などが無かったが学生は真剣そのもので受講態度が素晴らしかった。のべ1千人近くの学生が履修したが、最後の感想文には「算数や数学はものごとの理解を大切にして、実生活に非常に役立つことを初めて知った」「数学は答えを当てる学問だと思っていたが、プロセスを大切にして導くものだと悟った」といった内容が続出したのである。

 各大学は「マークシート試験だと採点の苦労はなく、すぐに合否を発表できるので経営面でもプラス」といった安易な発想を見直してはどうだろうか。

 センター試験を高校教育をきちんと履修しているかを確かめるテストとして課し、パスすれば自由に希望の大学学部を受験できる「高大接続試験」に移行させる構想も一部で検討されているようだ。理念は賛成だが実態は「小大接続試験」がいいところである。大学入試センターのような公的な機関は、各大学の実情に合った入試問題を提供する組織になってもいいのではないか。大学入試の在り方は、日本の将来の視点で論じられることを切に願う。

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【プロフィル】芳沢光雄

 よしざわ・みつお 東京理科大学教授を経て現在、桜美林大学教授。理学博士。著書に「新体系・高校数学の教科書(上下)」ほか。