一極集中を崩したのは。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 










【大阪特派員】鹿間孝一





「たかじんnoばぁ~」というテレビ番組(読売テレビ制作)を思い出す。スタートしたのが平成4年10月で、4年近く続いた。

 スタジオに本格的なカウンター・バーのセットを組み、歌手でタレントのやしきたかじんさんがマスター役で、ゲストを客として迎えて、酒を飲みながらトークするというスタイルだった。酔っぱらってゲストを怒らせたり、暴言や放送禁止用語が飛び出して「ガオー!」という編集音が入ったりした。土曜の深夜だから羽目を外しても許されたのだろうか。こちらも酒を飲みながら楽しんだ。

 関西では超がつく有名人である。「たかじん胸いっぱい」(関西テレビ)▽「たかじんのそこまで言って委員会」(読売テレビ)▽「たかじんNOマネー」(テレビ大阪)の3つの冠番組を持っている。

 なかでも、橋下徹大阪市長ら話題の政財界人をゲストに、政治・時事ネタを舌鋒鋭く斬りまくる「たかじんのそこまで言って委員会」は、平均視聴率15・3%という日曜昼では破格の数字である。

 その視聴率男が先月末、「食道がんが判明したので、治療のためにしばらくの間、レギュラー番組を休ませていただきます」とホームページで公表した。在阪テレビ局は大あわてだ。今のところ各局とも早期復帰を願って、代役を立てて番組を継続している。
突然の「休業宣言」が逆にタレントとしての価値を高めたようだが、ここで注目するのは、関西ローカルに徹した“したたかさ”である。

 大阪に本社を置く企業も大半が広報・宣伝部門を東京に移した。政治、経済、芸能、文化などあらゆる情報源が一極集中し、それを発信するメディアも東京中心である。タレントもメジャーになるために東京進出をめざす。

 本人に聞いたわけではないが、「ならば…」と考えたのではないだろうか。かつて東京キー局の番組に出演して、思い通りにならなかった不満があるらしいが、それはさておく。

 大阪には何事によらずアンチ東京の気分がある。建前より本音の街である。ホームグラウンドだから受け手の気心は知れているし、毒舌やどぎつい表現もギリギリのさじ加減は心得たものだ。もちろん人気がなければ使い捨てられるが、自信があったのだろう。

 結果、自分の思うように番組を作って、開始時は関西ローカルだった「たかじんのそこまで言って委員会」は現在24局ネットになった。それでも関東エリアの日本テレビには流れていない。「関東で放送されるなら辞める」と拒否しているからだという。東京嫌いは徹底している。

橋下旋風にも似たものを感じる。もとは大阪というコップの中の嵐だった。背景には大阪の地盤沈下と閉塞(へいそく)感がある。そうした不満を過激に代弁して圧倒的な支持を得た。府知事・大阪市長のダブル選挙で大阪を制して、次は国政進出をめざすという。「大阪から日本を変える」という主張を、中央政界も無視できなくなった。今や橋下市長の言動は全国区の注目を集める。

 「日本の中で『情報発信、東京一極集中』が近代から現在までの宿命のように思いこむ傾向がつよいが、日本は江戸期以前から世界の中でも『地方』が、ゆたかな独自性を形成してきた社会だった」

 小松左京さんが20年近く前に産経新聞大阪版で連載した「こちら関西」には「もうひとつの情報発信基地・大阪」という副題がついている。

 たかじんさんと橋下市長に共通するのは、もう「大阪発」はローカルではないということだろう。


                                (しかま こういち)