【土・日曜日に書く】論説副委員長・高畑昭男
米大統領選に向けた共和党の候補者選びが混迷する中で、訪米した中国の習近平国家副主席がオバマ大統領らと会談し、「米外交デビュー」を飾った。
習近平氏は、10月の中国共産党大会で胡錦濤国家主席から党総書記の地位を受け継ぐことが確実視され、今後10年間の中国最高指導者となりそうだ。一方、米国内では11月の大統領選で再選を目指すオバマ氏に挑む挑戦者たちがしのぎを削っている最中だ。
米中ともに指導部の交代期を迎え、アジア太平洋で本格化する大戦略ゲームに備えて互いの相手をじっくりと見定める。習氏の訪米は、そんな構図で展開した。
◆アジア戦略が本格化
オバマ政権は「将来の米中関係を安定させる投資」と位置づけて首脳級の待遇をした上で、儀礼の範囲内で軍事・安保、外交、経済・通商、人権問題など両国間の懸案をズラリと並べてみせた。
片や習氏は「中米関係の健全かつ安定した発展を引き続き期待する」などと述べ、「米中対等」の協力関係を主張した。互いの主張や注文も踏まえ、ほぼ想定通りの展開に終始したが、互いを見定めるという点では中国のほうが分が悪かったともいえる。
米側は習氏の言動をつぶさに観察することで次期中国指導部がアジア太平洋でどんな布石を打ってくるかを予想しようとした。しかし、中国にとっては、米国の次期政権が誰に委ねられ、アジア太平洋でどう出てくるかは大統領選が終わるまで分からないからだ。
オバマ氏が再選されれば、昨年秋以降に打ち出した「アジア太平洋シフト」がさらに展開されることになる。そうでない場合は、新大統領の対中政策に中国は白紙で向き合わなければならない。
◆世界が目をこらす
その内容次第では、中国だけでなく、同盟国である日本の外交・安保政策はもちろん、アジア太平洋全体の戦略的将来にも重要な影響を与える。まだ予備選段階にあるとはいいながら、共和党の候補者選びにアジアや世界が目をこらしているのはそのためだ。
共和党の現状は、「弱い本命」とされる中道派のロムニー前マサチューセッツ州知事がリードし、これを保守派のサントラム元上院議員らが追撃中だ。リバタリアン(自由至上主義者)政策を掲げるポール下院議員も、リーマン・ショック以降の内向きムードを背に一定の支持を保っている。
3者ともに内政・経済中心の公約を掲げるが、日本やアジアにとっては外交・安保政策が最重要であることはいうまでもない。
ポール氏は教育、商務、エネルギーなど5省の廃止と海外軍事行動や途上国援助の停止などで「初年に1兆ドルの歳出を削減する」という。在外米軍撤退と極端な不介入主義が特徴で、当選すれば日米同盟も崩壊しかねない。中国は歓迎しても、日本にとっては論外というべき路線だ。
一方、ロムニー氏は内政面で相対的に「中道」「穏健」などとされるが、外交・安保政策顧問には保守派も多い。「21世紀もアメリカの世紀とすべきだ」と強い経済、国防、価値に基づく卓越した指導力の堅持を掲げる。国防予算の300億ドル増額、現役兵力10万人増などを公約し、アジア太平洋の米軍能力の強化、同盟諸国やインドとの連携などを通じて中国の軍事的台頭を強く牽制(けんせい)する。
経済・通商面では中国を直ちに「為替操作国」と認定し、知的財産権や人権問題でも圧力を高めるという。ロムニー政権なら、オバマ氏の「アジア太平洋シフト」と方向性は似ているといえる。
保守のサントラム氏は、中国、イラン、ベネズエラを「迫り来る脅威国」とみなし、レーガン流の「価値と力」に基づく外交を説いている。アジア太平洋方面の詳細な構想がまだ描かれていないのは残念だが、人権問題などで中国に厳しい姿勢と日本などとの同盟重視路線は確実だろう。
とはいえ、世界の難題は米大統領選を待っていてはくれない。
◆「頼れる同盟国」が必須
イランの核開発、シリア問題などに加え、アジア太平洋でも当の中国は着々と海洋進出を広げている。北朝鮮は金正恩新体制の下で核・ミサイル開発を中心とする先軍政治を改める気配はない。
日本の安全と国民の平和を守るには、何よりも「アジア太平洋に強い大統領」を選んでもらいたいことはいうまでもない。東南アジア諸国も同じ気持ちで米大統領選を見守っていることだろう。
それには日本自身が「頼れる同盟国」と米国から見られるようでなければなるまい。野田佳彦首相は今春にも訪米し、日米安保共同宣言を通じて同盟強化をめざすという。在日米軍再編の着実な履行など実際の行動で示すことが必須だ。
(たかはた あきお)