現在、日本経済で最大の問題は10年以上続くデフレだ。デフレとは、物価下落をはるかに凌ぐ速度と幅で収入が下落すること。毎年給与が下がってしまうのだから、若者たちでさえ、夢や希望を持っていても萎えてしまう。
円高も問題だ。円高はデフレを加速させる。輸出企業は競争力を維持するためにコストを下げ、輸入品と競合するメーカーも価格競争からコストを下げるからだ。これらは賃金の削減につながり、デフレはさらに悪化する。
こうした問題を放置したまま、消費税増税をしても税収は増えない。
政府の税収の「源」は、国民所得の総計であるGDP(国内総生産)である。名目GDPが成長すれば税収も上がるが、低迷すれば税収も減る。
1995年の阪神大震災後、橋本政権は復興需要を見込んで97年に消費税増税を行った。97年度の一般会計の税収は53・9兆円で、前年度の52・1兆円から上がった。だが、増税で景気が腰折れして、翌年以降はそれを超えることはなかった。歴史的にも、円高・デフレ下での増税は間違いだと証明されている。
最近、政府・日銀が昨年10~11月に9兆円もの為替介入を行い、その中には1兆円の「覆面介入」も含まれていたことが明らかになった。ところが、結果は1ドル=76円台でほとんど効果はなし。欧米との協調介入に失敗して、単独介入したのが原因だとされる。こうした責任は政府も日銀も誰も取っていない。
円高の原因として、2008年秋のリーマンショック以降、FRB(米連邦準備制度理事会)は大幅な金融緩和を行い、バランスシートを約3倍に拡大させたのに、日本銀行は1・2倍しか増やさなかったことを指摘する向きがある。この差こそ円高の原因であり、日銀が円を増刷することが、抜本的円高是正となるという分析だ。
学習院大学大学院の岩田規久男教授の試算では、日銀が欧米並みの量的金融緩和政策を行い、マネタリーベース(資金供給残高)を40-60兆円拡大すれば、円は1ドル=100-110円程度、物価上昇率は2-3%程度、株価1万1600-1万3000円程度になるという。
先週、トヨタ自動車は歴史的な円高を乗り切るために、現在、福岡県で生産しているSUV=多目的スポーツ車について、生産を米国に移すと発表した。このニュースを政治家はもっと深刻に受け止めるべきだ。行き過ぎた円高とデフレは、日本経済を支えてきた自動車や電気、情報関連産業などの存立基盤を脅かしている。いまこそ、政府と日銀が一体となって、わが国の産業空洞化を食い止めなければならない。
日本銀行に課せられた使命は「物価の安定」だけでいいのか。FRBには「物価の安定」とともに「雇用の最大化」という責務がある。デフレ克服、円高是正につなげるような、知恵と政策が必要だ。これ以上、政策無策の野田政権には任せられない。
(自民党衆院議員)