米海兵隊に頼り切りの状態を脱するには。
2012.02.08(水)桜林 美佐:プロフィール
最近、巷で「陸上自衛隊を海兵隊化したらどうか」などという話を、しばしば耳にするようになった。
のっけから結論を言ってしまうと、これは「カメラマンを辞めてアナウンサーになろう」みたいな、かなり無理のある話である。
この「海兵隊化」論を言っている方の中には、「海兵隊的な装備を保有」することを指しているケースもあり、全てを否定するわけではないが、少なからぬ人が、そもそも「海兵隊とは何か」をよく理解しないまま、勢いで述べているのではないかと思われるふしがあるのが心配だ。
海兵隊とは何か・・・。彼らは、自らで陸・海・空、そして後方支援も一体的に運用する独立軍種であり、自前の戦闘機や海軍の空母などを用いて、究極の自己完結能力を発揮する前方展開部隊である。
一朝有事となれば、まず先に海兵隊が展開し、その後、陸軍が入るという段取りになる。つまり、そもそも両者は違う役割を担っているのだ。
日本の島を奪還しに行くのが米海兵隊でいいのか
では、なぜ今、この「海兵隊化」なる話が出てきたのか。それには、昨今の中国の海洋進出への対処として、わが国が島嶼(とうしょ)防衛機能向上の必要に迫られていることがある。
また、こうした中、唯一無比の頼りであった米軍が新しい国防戦略に転換することになったこともあるだろう。さる1月5日に明らかにされた米国の国防戦略の見直しは、中国による軍事的台頭を受け、いよいよ正面からそれに対抗すべく態勢を築くというもので、日本の役割も大いに期待されるであろうものであった。
また、中国の弾道ミサイル「DF21」が沖縄を射程に入れたため、海兵隊をグアムとオーストラリアに分散配置する方針は、わが国がこれまでのように米国依存体質では立ち行かないのではないかと、予感させるものであった。
日本はどうすればいいのか、真剣に考えさせられる時に至ったのだ。
そこで、わが国も沖縄の米海兵隊に依存するばかりではなく、自前で海兵隊的な能力を持つべきではないかと、いう話が出てきたようだ。
それに、日本が自国の島を占領されたなどの場合、それを取り返しに行くのがまずは米海兵隊でいいのか、日本人のために先に海兵隊の血を流させるのか、という思いもあるだろう。
推し進めるべきなのは「陸・海・空自衛隊の統合運用」
しかし、ただでさえ防衛予算が削減の一途を辿っているというのに、一番人員が多いからといって陸自の一部を海兵隊にしてしまおうなどという議論は、あまりに乱暴だ。
海兵隊は短期間運用のパッケージ機能を持つ組織であり、その後には陸軍(陸自)が続く。つまり陸自としての戦力を保持することは不可欠なのだ。全てが前方戦力になることはあり得ない。
どちらかと言えば、この着想は現在進行中の「陸・海・空自衛隊の統合運用」であると言った方が相応しく、この統合運用こそ推し進めるべきものであろう。
もし仮に、わが国に海兵隊を作るならば、「第4の軍」として新たな概念で創設すべきではないか。もちろん、それには莫大な予算の増額と法改正が不可欠であるが・・・。
一方、陸自としても、こうした世界情勢に対しのんびり構えているわけではない。2002(平成14)年には島嶼防衛を主な任務とする「西方普通科連隊」を創設し、陸・海・空自衛隊の統合部隊と米軍との演習も行われるようになった。こうした訓練をさらに強化しながら、自衛隊として統合力を高めようと努力しているところである。
ただ、誤解があってはいけないのは、あくまでもこれらに関しては「自衛隊として」参加しており、「海兵隊になるために」訓練をしているわけではない。
では、装備だけでもそれらしい物を持ったらどうか、という説もあり、これはできればそうしていただければいいと思うが、その場合、「専守防衛」の日本国内にはそぐわないとして、「なぜ、そのような攻撃的な装備を持つのか!」と、国内外からのバッシングを受ける可能性があるだろう。
「こんな機能はいらない」などということで、スペックを妥協させられることも、いかにもありそうである。
海兵隊創設以前にやるべきことは山積
こうした全てのハードルをクリアする必要があるわけだが、果たしてこれだけのコストに見合う運用方法を見出せるのかどうか、あくまで「国内運用」であるという特殊性、国土国情への適合性を考慮しながら「どのように使うのか」を、じっくり考える必要がある。
ただ装備を持てばいいというものではないということだ。
とはいえ、「米軍依存体質」がいいというわけでは、無論ない。いずれにせよ、現在の、自衛隊が単独で機能できないよう制約されている憲法問題も視野に入れた、根本的な国防態勢の見直しが必要であることは言を俟たない。
ただ、それ以前に、現状し得る最大限のことをしなければならないとも感じる。情報・通信態勢や陸自の緊急展手段・・・等々、喫緊の宿題は山積なのだ。
「専守防衛」という世界的に特殊な事情の中では、南西方面のみならず、どこから、どのように狙われるか分からないわが国の主権と独立を守るために、いろいろなオプションを「薄くとも残す」方策が肝要なのではないだろうか。