【名言か迷言か】
またYou Tubeが火を付けた「首相の厚顔無恥と二面性」
「与野党が信頼関係に立って話し合い、結論を出し、国政を動かしていくことこそ政治の責任だ」
野田佳彦首相は24日の施政方針演説で、自民党の福田康夫、麻生太郎両元首相の演説を引用した。消費増税という「目指すものは(麻生氏と)同じ」と訴える狙いからだったが、結果は逆効果に終わった。
当の福田氏は「あの頃は話し合うどころじゃなく、すべて拒否された」と一蹴。小泉進次郎衆院議員も「麻生内閣不信任案の賛成討論をしたのは野田氏。(『目指すものが同じ』では)説得力がない」と、激しく反発した。
野田氏が政権交代前から消費増税を訴えていたら、自民党の反発もこれほどでなかったかもしれない。だが、実際には真逆の訴えをしていたことが周知の事実となってしまった。暴露したのは、中国漁船衝突事件でも政府の不手際を世に知らせた動画投稿サイト「ユーチューブ」だ。
「マニフェストに書いてあることは命がけで実行する。書いていないことはやらないんです。それがルールです」
野田氏が2009年衆院選で行った街頭演説の映像が今、ネット上で話題を呼んでいる。もちろん、民主党マニフェストのどこにも「増税」の文字はない。
自民党の町村信孝元官房長官は26日の派閥会合で、これを取り上げ「自分だけが責任ある政治家であるかのごとき顔をする厚顔無恥さ。2年半で、ああいうことが平気で言える二面性。徹底的に対決するところは対決する」と怒りを爆発させた。
要するに、財務官僚の「ご説明」で宗旨変えしておきながら、歴史に名を刻みたい野心は秘めて「ええ格好」するな、ということのようだ。
野田氏とすれば「自民党も与党時代、同じことを訴えたはずなのに」というのが本音だろう。だが、自民党にも「民主党こそ野党時代、徹底して反対したではないか」との言い分がある。
相手を攻撃する刃(やいば)が自分に返ってくる民主党お得意の「ブーメラン現象」だ。もっとも、自民党だって政権党の頃は「何でも反対するのは無責任」という立場だったはずで、程度の差はあれ、ブーメラン化は「お互いさま」といえる。
両党の首相演説が同じ内容になるのも「官僚が書いている証拠」(江田憲司みんなの党幹事長)以外の何ものでもない。ただ、両党に一貫した政策がなく攻守変われば政策まで逆転する事態は深刻だ。これは二大政党が「景気」と「財政規律」を対立軸に再編されていないことが要因だ。このテーマで与謝野馨氏や小池百合子氏らが論戦を繰り広げた2008年の自民党総裁選は、その一例といえるだろう。
景気か財政重視かを「横軸」、TPPなど市場経済志向の強弱を「縦軸」とした座標軸で考えれば分かりやすい。民主、自民両党には、景気重視でTPP賛成の「上げ潮派」、TPPには慎重な地方重視の保守系議員がいるし、「増税派」にもTPPへの態度は賛否それぞれ存在する。
本音では消費増税、TPPともに賛成と思われる谷垣禎一自民党総裁が、野田氏の増税路線を「手続き論」で追及し、党内から迫力不足と失望感が広がるのは無理もない。逆に、党内ではここ数年「麻生おろし」や「菅おろし」で強いリーダーシップが発揮しにくくなっていることも政策的ねじれによる求心力の低さと無縁ではないだろう。
野田氏の施政方針と同じ24日、オバマ米大統領は一般教書演説で、富裕層への増税を提唱し「公平な経済を目指す」と共和党との対立軸を強調した。共和党も予備選で、撤退を決めた保守派候補が別の保守派候補の支持に回るなど米国の二大政党制は機能していると言っていい。
党首選では「反小沢」の一本化で選出された野田首相。オバマ氏と同様、演説の名手と言われながら、抱きつき演説で意に反して野党の神経を逆なでしてしまうような惨状が続く限り、日本が「決められない政治から脱却」することはないだろう。(森山昌秀)
◇…先週の永田町語録…◇
(23日)
▽粉骨砕身
田中直紀防衛相 (沖縄側と)心を通じ合って課題を乗り越えたい。解決の糸口を見つけたい。粉骨砕身努力していきたい。(米軍普天間飛行場移設問題について記者団に)
▽機運到来
山口那津男公明党代表 社会保障の将来がどうなるか国民の最大の関心事。堂々と議論しよう、国民が安心する未来を描いていこうと呼びかけてきた。その機運到来だと考えている。(党埼玉県本部賀詞交歓会で)
(24日)
▽真正面から
輿石東民主党幹事長 私たちに与えられた使命は、避けて通れない歴史的な国難に真正面からぶれることなく、逃げることなく挑戦していく、そのひと言に尽きる。(党代議士会のあいさつで)
▽遠くへ来た
福島瑞穂社民党党首 「国民の生活が第一」から遠くへ来たもんだ、という演説だ。自民党と民主党の違いが本当に見えなくなっている。政権交代は何だったのか。あまりにひどい。(施政方針演説を受けて記者団に)
(25日)
▽包容力
鳩山由紀夫元首相 野田佳彦首相の大きな包容力で、与党も野党も包み込んでいただきたいと申し上げた。(首相と官邸で会談後、記者団に)
▽口先だけ
渡辺喜美みんなの党代表 国会議員が身を削らずして、国家公務員の人件費をカットするのは不可能だ。覚悟のない人が口先だけのことを言っている。(国会議員の歳費カットをめぐる民主党の対応について記者団に)
(26日)
▽一番軽い1票
野田佳彦首相 実は、私の選挙区である衆院千葉4区は、1票が一番軽い選挙区だ。従って衆院の「1票の格差」は、本当に是正しなければならないと考えている。(衆院選挙制度改革について衆院本会議で)
▽これはやばい
麻生太郎元首相 わくわくさせられるどころか、どきどきする形になり、冷や冷やして来て「これはやばい」ということになりつつある。(政権交代後の民主党政権に関し自民党派閥総会で)