長嶋茂雄さんは、立教大学に入学したころから、プロ野球選手になると決めていた。それどころか頭の中は、日本の野球をどう変えていくかで、いっぱいだったという。
▼「そのもとは大リーグです。ユニホームのこともそうですが、ギャラの面、技術の面まであらゆる研究の課題を大リーグから学びました。…腰を中心にしたスウィング、ディフェンス、走塁なんてもう大リーグの教育をそのままお手本にして走っていました」。ある対談で明かしている。
▼「ミスタープロ野球」と呼ばれたスーパースターの、面目躍如といえる。その長嶋さんも、時代の制約からは逃れられなかった。平成の世に現役選手だったら、「世界一の打者になる」と宣言して、海を渡ったかもしれない。
▼米大リーグのレンジャーズに移籍するダルビッシュ有投手(25)が、札幌ドームで行った記者会見の映像を見ながら、こんな感慨に浸っていた。1万人を超えるファンを前に、初めてメジャーを選んだ理由を語った。もはや日本で真剣勝負に値する打者が見当たらず、「モチベーションを保つのが難しかった」。「アメリカで日本の野球が下に見られるのは嫌」とも。
▼高度成長もバブル景気も知らない今の若者はかわいそうだ、という声をよく耳にする。その半面、恵まれた才能を生かし、懸命な努力を続ければ、世界を舞台に活躍できる。そんな「特権」を享受する世代でもある。
▼テニスの錦織圭選手(22)は、きのうの全豪オープン準々決勝で惜しくも敗れた。それでも、世界一の座が夢ではないことを示してくれた。時代に恵まれず、いやそれ以前に才能とは無縁だった中年記者にも、若武者たちの挑戦を見守る楽しみがある。