【40×40】笹幸恵
昨年は東日本大震災と原発事故、度重なる台風とそれに伴う土砂災害など、日本は幾多の困難に見舞われた。自らの身の来し方をあらためて考えた人もいるだろう。人間の無力さを痛感した人もいるだろう。そしてリーダー不在のこの国の将来に暗澹(あんたん)たる気持ちを抱いた人も少なくないはずだ。
以前、本欄でも紹介したが、昨年11月下旬に戦史検定を実施した。事務費を除いた収益は戦没者慰霊碑の保全に充てる。今年は、福島県の慰霊碑が地震で倒壊していたことから、その修繕費用として福島県遺族会に寄付することにした。
先日、慰霊碑の状況を確認するため、私は福島県へと出掛けた。二本松市の岳下遺族会が管理する忠魂碑は、高さ5メートルほどの石碑が崩落。大玉村の大山遺族会が建立した忠霊塔も、石碑がバラバラに崩れ落ちていた。同じ敷地内には、地元から出征した兵士たち111人の遺影を飾ったお堂があるが、原形を保ってはいるものの、剥がれ落ちた壁を応急修理した跡が生々しく、かえって被害の大きさを物語っていた。修繕のため会員たちに寄付を募ったのだが、「金を払うくらいなら脱会する」という人もいたという。会員自身も被災し、それどころではないのだ。
仕方のないことかもしれない。しかし、まだあどけない兵士一人一人の遺影を見ていくうち、私は涙がこみ上げてきた。彼らがかわいそうだからではなく、自分の無力さに。
けれどありがたいこともあった。同じく、以前に本欄で取り上げたことのある大光電機の前芝辰二社長。震災時には仮設住宅にいち早く照明器具を提供した。彼は戦史検定を受検してくれた。また、今年の寄付先が福島県遺族会だと知るや、個人的に50万円を寄付すると知らせてきた。そのメールの文末にはたった1行、こう書かれていた。
「僕は会津が好きなんですよ」
なんと粋な方だろう。なんと愛情とユーモアにあふれた言葉だろう。このひと言に人柄がにじみ出る。日本だって、まだまだ捨てたもんじゃない。
(ジャーナリスト)