日米安保破棄。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 









【防衛オフレコ放談】

公然と語られ始めた危機に処方箋はあるか。






 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題が日米同盟の懸案として横たわったまま2012年は明けた。自衛隊OBですら「日米安保破棄を真剣に検討し始めた米国」(元陸将の福山隆氏)という刺激的なタイトルの論文を寄稿するなど、日米安保体制の危機が公然と語られ始めた。背景には、普天間移設の難航に加え、米国の戦略転換に伴い、中国に近すぎる日本から戦力を分散させるという地政学的要因もある。年明けからは、日米双方の新戦略に基づき抑止力と対処能力を擦り合わせる作業も始まる見通しで、安保破棄を杞憂に終わらせるための処方箋は日本が主体性を発揮することに尽きる。


対中シフトで一致


 米軍は「エア・シー・バトル(ASB=空・海の戦闘)」という構想の検討を本格化させている。冷戦時に欧州で想定した「エア・ランド(陸)・バトル」との違いは一目瞭然で、対処すべき領域が陸地から海上に変わった。中国が進出を加速させる東シナ海と南シナ海への戦力投入を念頭に置いている。

 構想では海・空軍の長距離攻撃能力が柱となる。有事の際、弾道ミサイルなどで米軍の「接近阻止」をもくろむ中国に対し遠方から反撃する態勢に移す。海兵隊の緊急展開能力も重視しており、ある政府高官は「海兵隊も運用構想の検討に密接に関与している」と話す。

自衛隊も昨年末策定の「防衛計画の大綱」で掲げた概念「動的防衛力」に沿い、中国の南西諸島侵攻に備える態勢に移行。手始めとして「ISR」と呼ばれる情報収集・警戒監視・偵察活動を強化する。平成24年度予算案では、与那国島(沖縄県)に陸上自衛隊の沿岸監視隊を置くための用地取得費や、低空で侵入する航空機を探知できるE2C早期警戒機を那覇基地に展開させる基盤整備費を盛り込んだ。

 拓殖大大学院の森本敏教授は「ASBもISRを重視している」と指摘。日米は対中シフトに加え、強化すべき能力の方向性も一致している。


在沖縄米軍にも変化


 ASBにより沖縄に駐留する米軍の運用も見直しが進みそうだ。中国との「前線」にあたる嘉手納基地は弾道ミサイルの脅威にさらされているため、航空戦力を分散させておく誘因が強まる。有事には戦闘機をいったんグアムまで後退させることも視野に入れ、グアムへの訓練移転を増やすとみられる。

海兵隊についてもオーストラリア駐留を決めたように、中国の弾道ミサイルの射程外に置きつつ、東シナ海や南シナ海の広範な地域での事態に即応できる配置を目指す。在沖縄海兵隊も南シナ海への展開訓練や東南アジア各国との共同演習を活発化させ、防衛省幹部は「沖縄に定住する形ではなくなる」とみる。

 こうした配置や運用の見直しが進めば、嘉手納基地周辺の騒音や海兵隊訓練が減る。これを沖縄の負担軽減と位置づけ、普天間飛行場の代替施設を名護市辺野古に建設することに理解を得ていくしか、普天間問題の解決の糸口は見当たらないとの見方もある。

 ただ、米軍の戦力分散は南西方面の抑止力低下、ひいては対中シフトの掛け声倒れにつながりかねない。それを防ぐには、陸自が海兵隊のような水陸両用機能を強化したり、航空自衛隊が嘉手納基地の防空を担うなど日本の防衛力向上が欠かせない。

 米国の戦略転換に受け身になるのではなく、日本側から抑止力強化と沖縄の負担軽減に向けた具体策を提示する「覚悟」が求められている。


                            (半沢尚久)