「武器輸出三原則」の緩和が決定。
2011.12.28(水)桜林 美佐:プロフィール
年末も押し迫った12月20日、市ヶ谷の防衛省は慌しかった。それもそのはず、前日には金正日死去が報じられ、当日は陸上自衛隊の南スーダンPKO派遣の実施計画や、航空自衛隊の次期主力戦闘機が「F-35」に決定、相次いでその発表がされた1日だったからだ。
極めつけが、夕方から省内で催された長渕剛氏のミニライブ。被災地で活動する隊員を激励したとして一川保夫防衛大臣から特別感謝状を贈呈したことに伴って行われた。それはそれでいいのだが、タイミングなどいろいろな要素を勘案すると、苦笑しながら眺めていた関係者も少なくないのではないか。
そもそも防衛大臣からの感謝状贈呈式は、10月の自衛隊記念日行事の一環として、防衛基盤育成や隊員募集などに協力した功労者や団体に対し行われている。
これとは別枠で防衛省が特別感謝状を贈呈し、返礼のミニライブというのは、ニュース性はあるが、様々な事案を抱えるこの時期にパフォーマンスが過ぎると言われかねない。老婆心ながらちょっと心配になってしまった。
防衛産業は武器輸出三原則の見直しを望んでいない
折も折、普天間問題についても環境アセスの提出時期などが注視されているところである。さらに12月27日には、政府が「武器輸出三原則」緩和を決定し、藤村修官房長官の談話として発表した。今こそ国民への丁寧な説明が求められる時なのである。
国会議員の中には、武器輸出三原則と非核三原則の区別がつかない「先生」もいるという恐ろしい噂も聞いたことがある。それが永田町界隈の都市伝説に過ぎないことを祈るばかりだが、いずれにしてもその意義が伝わりきれていないことは確かであろう。政府サイドから、もっと理解を求める努力があってしかるべきではないか。
ポイントは、一体何のために緩和するのかということだ。一部に、これは防衛産業の意向を汲んだものだと言う向きもあるが、それは誤解だと言っていい。
なぜなら、武器輸出三原則はどちらかと言えば、日本の防衛産業を温存するために有効な施策である。この門戸を開くことは防衛産業界にとって歓迎されるとは言い難いのだ。このあたりは、清谷信一著『防衛破綻 』(中公新書クラレ)に詳しい。
これまで、日本の地形や気候、体形などに特化したものだけを作ってきただけに、世界のニーズに必ずしも適合せず、かえって世界の競争の波に放り出されることで押しつぶされてしまうリスクが大きいのである。
本来は、あくまでも国内でのみ使用されることが望ましいと考えていた企業であったが、それでも、武器輸出三原則緩和への空気が盛り上がってきたのは、国内の財政事情などから止むに止まれぬ情勢となったからだ。この点をしっかり説明すべきだろう。
今回の官房長官談話では、戦闘機などの国際共同開発への参加や、国連平和維持活動(PKO)で使用するヘルメットや防弾チョッキを例外として認めるとしている。
だが、国際共同開発には、コスト削減や友好国との関係強化、技術水準を高めるなどの利点もあるものの、相手国の政策に影響されたり、自国の技術流出のおそれや、計画が突如変更されるなどの可能性もないとは言えず、デメリットも数多い。
戦闘機の共同開発に加われないことのデメリットとは
それでも国際共同開発を志向するのは、高性能化・高価格化した戦闘機開発を1国で担うのが難しいという理由が大きい。F-35は米英など9カ国による共同開発だが、日本はそれに加わっていないために、大枚をはたかねばならないのだ。
仮にライセンス国産が可能だといっても、ブラックボックスだらけでは、事実上は単純購入と大差ない。やるならばもっと早いタイミングで踏み出すべきだった(これは現政権だけの責任ではない)。
そういう意味で、今の時点でさらに踏み込むべきなのは、日本でライセンス国産をしている部品等の輸出ではないだろうか。「出藍の誉れ」で日本は元々の部品よりも優れたものを作り出すことは得意だと言われ、その成果が実際にわが国の自衛隊装備が高い可動率を維持していることに表れている。
あまり公表はされないだろうが、他国では航空機など輸入品については部品枯渇が多数発生し、自国の生産や整備能力が追いつかないことから、可動率が低いものが多いと聞く。
わが国の得意分野を生かすならば、そうした国に(紛争を助長しない、などの条件を満たした)部品やノウハウ、整備基盤などを提供できるようにする発想があってもいい。
日本の技術が東南アジア諸国などのニーズに応えることになれば、名実共にアジアの平和に資する活動となり、わが国にとっては産業の活性化にも繋がり、「Win=Win」の関係を構築できる。物によっては完成品、また退役した中古品を輸出することも検討されていいだろう。
武器輸出三原則は法律ではない
武器輸出三原則はあくまでも政府の方針であり、佐藤栄作内閣に始まり、三木武夫内閣で拡大解釈されたものの、法律ではない。それなのに、この見直しが言われる度に内容も理解せずに反対され、一方で十分な説明もされぬままで硬直化してしまった。
元々、日本は戦後の早い時期から外国為替及び外国貿易法と、これに基づく政令である輸出貿易管理令により、武器の輸出に関しては経済産業大臣の許可を必要としていた。
この武器の定義を柔軟に見直すことによって、国内企業や国そのものを活気づける施策となるのではないか。
経済的に閉塞感が続く日本だが、防衛装備品分野においては、まだポテンシャルがある。この虎の子のカードを切るかどうかの判断は、今しかないのだ。