★☆救う会全国協議会ニュース★☆(2011.12.28) | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 









草莽崛起:皇国興廃此一戦在各員奮励努力セヨ。 








■国際セミナー「拉致被害者はなぜ生きていると言えるのか」レポート

平成23年12月10日、都市センターホテル

櫻井よしこ(総合司会)

 皆様こんにちは。休日の土曜日、よくおいでくださいました。私たちの国が北朝鮮という国家によって多くの国民を拉致されて、本当に長い時間が過ぎています。この間に、戻ってきたのは本当にごく一部であります。多くの人々が、特定失踪者も含めて行方が分かっていない状況が幾十年も続いています。

 私たちは、常にこれは国家なのかという疑問を抱いて参りました。その間に、もう他の人々は亡くなっているんだということが北朝鮮側から言われ続けてきました。日本の側にもそのような意見に同調する人々が少なからずいます。

 そうではないんですね。第一に、問題の解決を図るにはそんなことを考えていては何も進まないのであります。第二に、拉致された犠牲者が亡くなっているという証拠はどこにもありません。むしろその反対の、まだ生存していらっしゃる、どこかにいらっしゃるという事実関係を示す情報が漏れ伝わってきます。私たちは国家の意思として、また民族の決意として、そしてこの地球上に生きる人間のいわゆる基本的人権、その人の生存権、自由権というものを信じる民主主義社会の一員として、この拉致問題を真正面から正しい方向で解決して行きたいと念じ
てきました。

 拉致被害者はなぜ生きていると、ご家族の皆様方、それから超党派の議連の皆様方、救う会のメンバーが主張してきたのか、その証拠を具体的にみんなで話し合いながらそれを共通の土台としてこれからの拉致問題解決への動きを確かなものにしたいと感じてきょうのセミナーを開きました。国際セミナーでありますので、外国からの人々も参加してくださいます。後ほどご紹介させていただきたいと思いますが、まずきょうの開会の挨拶を家族会を代表致しまして飯塚繁雄さんにお願いしたいと思います。

◆何としても愛しい家族を取り返す

飯塚繁雄(家族会代表)

 皆様こんにちは。特にきょうは韓国から大勢の方々がいらっしゃっていますので、その情報を伺いながら、あるいは日本の情報とも照らし合わせながら、今後どうやったらいち早くこの問題が解決するかという方向をきちっと見極めて対処していきたいと考えております。

 北朝鮮に対しては、皆様ご承知のとおり、今のところ取り付く島のない状況ですけれども、わが日本が国家として、この拉致問題をいつまでに解決するんだという強い大きなメッセージがまず必要なのではないかと常日頃から考えております。私たちとしては政権、政府にこの解決を訴えるしかないわけですけれども、依然として、どうしようと思っているのかも分からない状況です。

 きょう、この国際セミナーの中で、実態、状況をきちっと踏まえ理解した上で今後の戦略を考えていく大きな場になるというふうに考えております。長い間かかっています。家族会はもうすでに14年、この問題に対して戦ってきております。しかしながら具体的な進展はなく今まできていますけれども、我々としては何としても愛しい家族を取り返すんだという意気込みの中で、家族の人たちは老体に鞭打って頑張り続けております。

 今この拉致問題はまさに国際的な問題となっております。国連でも論議されています。先だっても北朝鮮非難決議が採択されました。しかも賛成の国がどんどん増えています。そういう状況の中で一番多くの被害者を抱えている韓国、そして日本、この両国が特に手を取り合って、両国の国民、そして政府がこの問題に集中して一丸となった形で対応すべきだと考えております。皆様のいろんなご意見、ご支援をいただきながら、また闘って参りますので、きょうはよろしくお願い致します。

櫻井よしこ 飯塚さん、ありがとうございました。次に拉致議連会長の平沼赳夫さんによろしくお願い致します。、

◆今日いよいよ生存が明らかになる

平沼赳夫(拉致議連会長)

 皆様方こんにちは。我々議員連盟と致しましても、拉致された皆様方は生きておられるという前提の中で、国会の中に特別委員会も作らせていただきました。もちろん決議もさせていただきましたし、法案も2本作らせていただいたわけであります。一つは特定船舶入港禁止法であり、もう一つは改正外為法であります。厳しいですけれども、歯を食いしばって、やはり制裁をしなければならないということで頑張っているわけであります。

 きょうは、韓国から、元北朝鮮の統一戦線部幹部の張哲賢さん、そして大学教授も務められ、今は韓国の拉致問題で一生懸命頑張っておられる金美英さんたちにも参加していただいて、拉致被害者は生存しているということでセミナーが開かれることは大変意義深いことだと思っております。韓国の象徴的な申淑子さんに関しましてはご主人の呉吉男さんが来られる予定でしたけれども、体調を崩されましてメッセージをいただいております。

 きょうのセミナーを通じて、いよいよ生存というものが明らかになるのではないかと思っており、我々議連としても参画させていただきました。きょうのご参画に心から敬意を表し、私の挨拶に代えさせていただきます。

櫻井よしこ 平沼赳夫先生、ありがとうございました。次のご来賓は、衆議院議員で内閣府拉致問題担当大臣政務官である郡和子さんにお願い致します。

◆やれることは何でもやるという覚悟で

郡和子(政務官)

 皆様こんにちは。きょうは、北朝鮮人権法における北朝鮮人権侵害問題啓発週間の初日であります。その啓発週間のスタートを切って開催される家族会、救う会、拉致議連の国際セミナーにお招きいただきましたこと、政府を代表してご挨拶をさせていただく機会を与えていただきましたことに感謝申し上げたいと存じます。

 きょうのセミナーに参加されております拉致被害者のご家族の皆様方は、お子さんやご兄弟などを拉致されて既に30数年という長い年月が経過しております。いまだに拉致被害者の方々にご帰国いただくことができないことにつきまして、非常に強い憤りをお持ちであるということは十分に認識しておりますし、私も政府の責任者の一人として大変申し訳なく思っているところでございます。

 拉致問題は、言うまでもありませんけれどもわが国に対する主権の侵害であるとともに国民の生命と安全に関わる重大な人権侵害であって、決して許されない行為であります。同時に北朝鮮はわが国以外の多くの国からも拉致をしたとされていて、本日ご参加いただいております韓国でも被害者は5百人にものぼるとされるなど、わが国のみならず国際的な連携、取り組みが重要になっているわけでございます。

 昨今、南北や米朝などの動きも見られるわけですけれども、10月、野田総理と拉致被害者のご家族の皆様方との面会の席におきまして、総理が、「自分としては北朝鮮に行って、拉致問題をはじめとする諸問題を解決できるのであれば、いつでも行く。まずはそのための環境整備をしたい」と言及されました。政府と致しましては、すべての拉致被害者の即時帰国につながる方策を講じることができるように、韓国をはじめとする関係各国等とも国際的な連携の強化とあらゆる努力を行っているところです。政府と致しましてはこうした国際連携のほか1日
でも早い拉致被害者の帰国を実現すべく、やれることは何でもやるという覚悟で臨んで参ります。

 きょうから16日までの北朝鮮人権侵害問題啓発週間における各種行事を通じまして、国民の皆様方各層及び国際社会の支持や理解が広まりますことを祈念するとともに、先ほど飯塚代表からも厳しいご挨拶がございましたけれども、政府の取り組みに対しては皆様方の力強いご理解とご支援をお願い申し上げまして私の挨拶にさせていただきます。

櫻井よしこ ありがとうございました。次に衆議院議員で北朝鮮による拉致問題等に関する特別委員会の委員長の中津川博郷さんにお願い致します。

◆アメリカの協力がなければだめ

中津川博郷(衆議院拉致特委員長)

 皆さんこんにちは。このたび衆議院の拉致問題等に関する特別委員会の委員長を拝命されまして、身の引き締まるような思いで一生懸命やっているところでございますが、今まで私も、盟友の松原仁衆議院議員と違って地味ながら横田さんご夫妻をお招きして講演会をやったり、またいろいろな集会に出て参りましたが、今度委員長になった以上、少しでも進めたいと、今やる気満々でございます。

 私が尊敬する平沼赳夫先生、そして郡政務官も大変熱心で、東日本大震災の方の担当でもあるわけですが、政府の方も今、野田総理も思い入れはものすごく強いわけでありまして、とにかく委員会を、回数を増やして、できるならば、ロスレイテネンさん(米下院外交委員長)とも会いにアメリカにも行ってこようかなと。アメリカの協力がなければだめだと思うんですね。北朝鮮はやくざよりひどい国でありますから、話が分からないところがありますので。家族会の皆さんたちもだんだんご高齢にもなりまして、今、最後のチャンスかなあとも思っております。

 ここのところ国会の方でも展示会があったり講演会があったり、また明日も集会がございます。今ちょうどそんなような空気が盛り上がってきておりますので。これは民主党、自民党との戦いじゃありません。自民党も公明党も共産党もね、みんな、これは日本の国民の生命を守るということで、対立法案じゃありませんから、そこのところを一致協力して委員会のほうを、やったなあという風に皆さん方からご評価いただけるように頑張りたいと思います。

 なんか決意表明みたいになりましたが、一緒にどうぞご指導いただいて、なんとかこの野田政権の中で、私も全力で取り組んでいきたいと思いますので、どうぞお見知りおきいただいて、どうぞよろしくお願い致します。一緒になって頑張りましょう。

櫻井よしこ ありがとうございました。野田政権になりまして、本当にどこまで解決のお気持ちがおありなのか。大臣がころころ代わる。担当者がころころ代わるという中で、中津川さんの今の決意表明は非常に心強かったと思います。どうぞよろしくお願いを致します。次に松原仁さんにお願い致します。いろんな経緯がございましたことは皆様方もご承知のとおりであります。今は前拉致議連事務局長ということだけで紹介してくれと言われましたのでそのように致します。松原仁さんです。

◆原点は拉致被害者の方々は生きているとの信念

松原仁(前拉致議連事務局長)

 拉致議連の事務局長を致しておりまして、今は笠君に代わっておりますが、松原仁であります。今、中津川さんからお話がありましたロスレイテネンさんは、本当は、今年の7月に平沼会長と一緒に訪米した時、この週間にぜひ来てほしいということをかなり強く申し上げ交渉しておりましたが、ぎりぎりで来られなくなりました。皆さん頑張ってくれということでございますのでお伝えしておきたいと思います。

 言うまでもなく拉致問題の解決は最終的には対話をしなければいけないのは事実であります。しかしその対話を実効性あるものにするためには様々な舞台装置が必要であって、それは鞭が大きな要素であり、飴ももしかしたらあるかも知れないと、そういった様々な実効性ある舞台をつくることがどこまでできるのかというのが実は政治に課せられたテーマだろうと思っております。

 しかし私は、もちろんそのためにも汗を流し、ずーっとこのことに取り組んできた多くの仲間、また新しくこのことに問題意識を持つ仲間とともに汗を流して頑張っていきたいと思いますが、その原点にあるのは、きょうこの会において皆さんが確信を持つに至る拉致被害者の方々は生きていると、この信念こそが我々が運動、そして土俵づくりをし、そして対話をし、取り戻し、そして日本の国益を取り戻す、そして一人一人の人権を取り戻すための大前提だろうと思っております。どうかきょうのこの会をとおして一人一人の参加者がその確信を高めることを正に確信して私の挨拶と致します。

櫻井 今日は、この基調報告や皆様のスピーチから非常に多くのことが分かると思います。私は、今日の国際セミナーが、拉致問題の解決に非常に大きなエネルギーを与えてくれるのではないかと期待しています。


 まず基調報告1として、元北朝鮮の統一戦線部で仕事をしておられて、脱北して韓国におられる張哲賢(チャン・チョルヒョン)さんをご紹介します。張哲賢さんは3年前にもこの会で報告してくれました。その時も非常に大きな情報をもたらしてくれました。

 その時はまだ、身分を公にすることができなかったのですが、今日は、実名とお顔を示して基調報告をしてくださいます。西岡さんに通訳をお願いします。

◆【基調報告1 小泉総理の北朝鮮訪問前後の北朝鮮の状況】

張哲賢 最初に呼んでいただいた時、私が北朝鮮の政権を代表するわけにはいきませんが、北にいたものの立場として、横田めぐみさんのお母さんに謝罪をし、また激励を申し上げた記憶があります。しかし、その後も時間が経ち、このように来ることになりました。

 時間を節約するため、日本語の発表文が配布されていますので、その部分は通訳に任せ、その中で強調したい部分だけを申し上げます。

 これから私が発表します報告は、私が北朝鮮にいた時、北の工作機関の中で見た内部の報告書を土台にして作ったものです。小泉訪朝前後のことについてですが、もちろん、日本側の主張と北側の主張は違いがあると思いますが、北側からどのように見えていたのかということについては、大変根拠のあるものになると自負しています。

※発表論文は、メールニュース(23.12.14)参照。

張 首脳会談の北朝鮮の目的は大きく言って二つあると思います。まず、「苦難の行軍」という大変苦しい時期を経ていたので、日本から大規模な経済支援を取るということです。二つ目に、2年前に南北首脳会談をしましたので、日本とも国交回復をして、国際的地位を高めるということです。

 北側から見た、日本の小泉総理の訪朝の目的は、小泉内閣の支持率が落ちていたので、それを回復しようとしていたのではないか。この点が日本側の弱点だと北側では分析していました。

 首脳会談における日本と北朝鮮の立場の比較の項では、初期の両国の立場、そしてその後の両国の変化について分析しましたが、第1に重要な点は、北朝鮮は日本の植民地統治に対する賠償として400億ドル規模を求めたということです。

 その根拠として、北側は、植民地統治過程における資源収奪、人材収奪、そして物質的・精神的損害賠償まで含めて計算して400億ドルだと言いました。それに対し、私が見た資料によると、日本側は次のように反論をした。日本が戦争に負けた8月15日以降、日本は北朝鮮に発電所や鉱山、金鉱などを置いてきた。それを北朝鮮は無断で使用した。その利子を払えという主張を日本側はした。

 それに対して北側は有効な回答をすることができなかった。その結果、合意金額が400億ドルから114億ドルに落ちた。私の記憶では114か115億ドルだったと覚えています。

 日本は過去への公開謝罪と北朝鮮政権の拉致犯罪への公開謝罪を交換する形の両国の同時反省を提案した。しかし北側は、日本の過去に関する公開謝罪を求めながら、自分たちは拉致問題に対する個別の関係機関の反省と謝罪、処罰は可能だが政権次元の公式的立場の発表はできないという立場だった。北朝鮮の外務省
は部分的に拉致を認めることについては、認められるという立場でしたが、我々統一戦線部を含む北朝鮮の工作機関は、部分的な認定は全面的な認定に拡大してしまうと、金正日の権威と連係させて部分的認定に反対するという立場でした。

 金正日の拉致認定及び謝罪は、実は、事前に準備されたものではありませんでした。当日の午前の会談が終わった後、休憩の時間に日本側の代表団の誰かが、「北朝鮮が公開的な謝罪をしないなら帰ろう」という発言をしたという盗聴資料が金正日のところに上げられ、その資料を見た金正日が事前に誰とも相談しないで、自分一人の決断で午後の会談で謝罪したのです。

 当時の北朝鮮の放送では、金正日が拉致を謝罪したとは報道しませんでした。「認めた」という表現を使いました。なぜなら、金正日は神様のような存在ですから間違えることはないので、謝罪することはないということが前提の社会だからです。

 日本と北の首脳会談の後、金正日は北の外務省の資質能力について疑問を持ち始めました。外務省は単純な結果主義者だと。戦略はなく希望だけ持って、こうなるだろうと信じて仕事をする安易な機関だと批判しました。

 そして金正日は統一戦線部を再評価しました。統一戦線部は交渉において、交渉の課題を提示し、交渉を実行するだけではなくて、その交渉の前後に目的が成就するように、心理戦まで展開できる部署である、ということです。

 そこで首脳会談の後、対日交渉は外務省から統一戦線部をはじめとする党の工
作機関に移管されました。その時金正日が話したのが、「外交も工作だ」という
ことです。

 統一戦線部は日本の中の朝鮮総連を行政的に指導しているわけですが、朝鮮総連や日本の中の様々な工作員を使い、心理戦を開始しました。その時の経験から、「めぐみさんは生きている」と言える一つの根拠があります。もしも金正日がその時点で、めぐみさんが死んでいると知っていたのであれば、「めぐみさんが死んでいるという前提で工作をせよ、心理戦を展開せよ」という指示が下りてきた筈ですが、そのようなことは一切なく、「拉致問題から国交正常化へもう一度雰囲気を戻せ。そのための心理戦をせよ」という指示が下りてきたからです。


 おかしかったことは、金正日の心理戦指示が出た2日後に、めぐみさんの両親に関する資料が総合的にまとめられたということです。当時の文書の中で、私が今でも覚えている表現は、「めぐみさんのお母さんを田舎の馬鹿なおばさんという風に扱え」、そして「右翼に利用されているだけの人なんだという風に心理戦をせよ」と書いてあったことです。

 日朝首脳会談の後、金正日が下した結論的な命令があるのですが、それは「6.15南北首脳会談のように事前に代価を貰わない限り、日本とはもう二度と首脳会談のようなことはするな」という内容です。

 また、報告書には書きませんでしたが、私が北朝鮮で聞いた拉致のことを少し申し上げます。拉致が始まったのは金正日の「現地化」指令のためです。私が勤務していた統一戦線部にも、金正日の「現地化」指令が標語として掲げられていたのです。それは何かというと、「平壌の中のソウルになれ」という「現地化」指令でした。

 なぜ「現地化」ということが大切になるかと言いますと、北朝鮮というのは自由民主主義国家でもなく、一般的な社会主義国家でもない封建国家ですから、他の国との異質さが顕著であったからです。

「現地化」は大人になってからでは難しいので、全世界から子どもを拉致してきて、子どもに北朝鮮の教育をして、そしてスパイとして使おうということも考えた。その「現地化」こそが、1977年頃全世界で起きた子ども拉致の原点でした。

 そして子どもを拉致しましたが、子どもたちは情緒的な安定を欠いてしまい、子ども拉致がうまくいかなかったので、「現地化」された工作員として使えず、その後に金正日から出た指示が、「シバジ」でした。

※「シバジ」というのを、訳者として補足しますと、朝鮮王朝時代に、男の子が生まれなかった両班(ヤンバン、貴族階級に相当)の家庭で、夫の側に妊娠させる力がないことが判明した場合、秘密裏に夫以外の男性を使い夫人を妊娠させ、男の子と得ようとしたことです。

 80年代の初頭、半ばからその「シバジ」工作が始まった。外国人の男性と北朝鮮の工作員女性の間で子どもを産ませ、その子どもを母親である北朝鮮工作員が育てる。外形的には白人なら白人、黒人なら黒人の父親の特徴を持っているが、生まれた時から北朝鮮で工作員として教育するということを行いました。

 ジェンキンズさんが北朝鮮から脱出しようと思った動機の一つに、自分たちの子どもがスパイとして使われるのではないかという風に恐れたと証言していると聞きましたが、それもまさに同じ事だと思います。

 次に横田めぐみさんの死亡の疑問点と生存の可能性について、北朝鮮にいた立場で整理してみました。

 一番信じられないのは、めぐみさんが49号予防院で死亡したという主張です。北では精神的におかしくなった人を「49号」と言います。そして北朝鮮の中でそういう人たちを治療する病院は、この49号予防院一つしかありません。全国で精神病になった人たちをここに集めます。治療というよりも収監する、とじこめる場所です。

 なぜ北朝鮮の主張がおかしいのか。めぐみさんは工作部署にいたわけですから、一般人が収容される49号予防院ではなく、対南工作機関要員とその家族を治療する専門の915病院に入院されなければならない。北朝鮮が、めぐみさんは915病院に入院したと言っているのならば信憑性があると言えます。

 特に、めぐみさんの夫も韓国人拉致被害者だったわけです。それなのに、全国から一般の国民が入院している病院に入れるということは、秘密を守るという観点からありえない。915病院に入れて治療するのが普通のあり方です。

 また、もう一つおかしいのは北朝鮮が出してきた死亡確認書です。その死亡確認書は死亡日と同じ日付で発行されています。北朝鮮には生命保険がありません。保険制度がない国です。

 ですから北朝鮮における死亡確認書というのは、権力機関が名簿等を整理するために貰うものであって、交通手段も通信手段も最悪な北朝鮮のようなところで、その日のうちに死亡確認書が出るということはありえないのです。

 3番目に北朝鮮が主張するめぐみさんの遺骨の管理の疑問点です。北朝鮮は、当時の夫である金英男さんが、病院の後ろの山に埋めたと言っています。北朝鮮では、病院の周辺に墓を作ることはできません。これは北朝鮮の環境法にも違反します。特に北朝鮮では、個人が自由に墓を作ることはできません。

 そしてまた北朝鮮では全部が国有地です。またたいがいの山は、農耕地が少ないので、農耕地として使うことになっています。従って、山も勝手に墓に使うことはできません。

 人間が死亡していた場合、それぞれが所属していた機関が、職員を埋める墓地区域を持っていて、そこに埋葬することになります。対南工作機関の墓地区域は平壌市の順安区域です。北朝鮮の主張が少しでも信憑性を持つためには順安区域の墓地に埋葬したという表現が出てこなければならないということです。そして北朝鮮の通念上、一度埋めた人を別のところに埋めなおすことは2回殺すことになるという意識がありますから、そういうことも起こりえない。

 また、北朝鮮には火葬場が全国で2つしかありません。どのような幹部でも順番待ちをしなければならない。自分が生きている間に、自分はもう生存の可能性がないと分かった段階で、順番を取らなければならない。それくらい順番を待たなければならないのに、金英男氏が勝手に掘り出し、また順番を無視して火葬したということはありえません。

 また金英男氏は、めぐみさんの遺骨を自宅に保管したと言っていますが、北朝鮮は徹底した個人神格化国家であり、個人が自分の家族・親戚の遺骨を自分の家に保管することは絶対に許されません。

 北朝鮮は、自分の経済を再建することができない国です。ですから外国から支援を得なければならない。そういう観点から、彼らは交渉には大変力を入れています。交渉準備を徹底的にやる国です。ところが日朝首脳会談の前に、めぐみさんが死亡することを証明する準備がまったくなされていなかったという点もおかしいことです。その部分については報告文に書いておきました。

 最後に、今、北は何を考えているかということについて少し申し上げます。北朝鮮は日朝首脳会談で大変大きなことをしました。金正日が出てきて、拉致を認めたわけです。きれ以上、北朝鮮は政府次元で何かをしないと思います。ですから、アメリカとの二国間交渉、あるいは韓国との交渉を通じて、日本を孤立させる政策を取る筈です。

 そして北朝鮮は待っていると思います。このことを申し上げるのは失礼になるかもしれませんが、敢えて申し上げると、家族会のご両親が亡くなられるのを待っている。時間を稼ごうとしている理由は、彼らは長期独裁国家ですから時間にしばられていない。

 日本ができることについて3つ申し上げます。

 第1に、日本は6者協議の参加国として、北朝鮮の核廃棄費用の分担国です。そして北朝鮮が参加する多者協議の枠組みは6者協議しかありませんから、6者協議の枠組みの中に拉致問題をはめこまなければなりません。

 日本の外交当局はもっと自信を持てばいいと思います。北朝鮮の核武装に対しては日本も核武装すると言って交渉すればいいのです。日本の核武装が出てくれば、中国は介入せざるをえなくなる。そのようなプロセスを作ること、中国を介入させることが大切です。中国の介入なしには、拉致問題も核問題も解決できないと思います。拉致犯罪は、核犯罪の解決の延長線上でしか解決できないのです。

 第2に、北朝鮮は今、市場化がどんどん進んでいますが、その中で情報の市場を作らせなければならないということです。これはどういうことかというと、北朝鮮では政権に対する忠誠心がどんどん低下し、儲けさえすればいいという人たちが増えています。その中で、拉致に関係する情報を売り買いできるようなことができるようにする。偽者もたくさん出てくるでしょうが、そこでも何らかのヒントを得ることができるということです。

 第3に、金正日とただ話し合いをするだけではだめなのです。甘い言葉だけを言っているということは、例えて言えば、殺人者にもう一度殺人をするための道具や力を与えるということにしかなりません。従ってアメとムチの両方が必要だと思います。ありがとうございました。


つづく