【イチから分かる】
「天皇陛下のご公務」 背景にご自身の強い思い。
23日に78歳になられる天皇陛下。11月のご入院や、秋篠宮さまが記者会見で「ご公務の定年制」に前向きな考えを示されたことを機に、陛下のご負担軽減策を改めて考えるべきだという意見が出されている。「お忙しすぎる」といわれる現状と、ご公務が減らない理由。その背景は何なのだろうか。
(芦川雄大)
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首相や最高裁長官の任命など憲法が定める「国事行為」をはじめ、陛下のご公務、ご活動は多岐にわたる。
通常毎週火・金曜に行われる閣議の後には、皇居に法律、政令関係の書類などがお手元に届けられる。陛下は丁寧に書類に目を通し、署名や押印をされる。
宮内庁によると、平成22年の署名・押印は約900件。離任・着任した各国大使や、各界で功労のあった人などの拝謁、茶会などの行事が同年中に約240回行われた。このほか、例年行われる植樹祭、国体といった地方での行事出席や学術・公益団体等の式典へのご出席も日常的に行われている。今年は東日本大震災の被災地や避難所のご訪問も加わった。
宮中祭祀(さいし)は年間約20件に臨まれており、早朝や深夜にかかるものもある。半数ほどは陛下ご自身が御告文(おつげぶみ)を奏上される「大祭」といわれるものだ。
宮内庁は陛下が75歳になられた直後の21年1月、昭和天皇が74歳になられた昭和50年当時と公務の量を比較するデータを発表した。外国賓客らとの会見、引見などは約1・6倍、赴任大使や帰朝大使の拝謁などは約4・6倍、都内や地方へのお出ましは約2・3倍に増加しているという。
今回、陛下が入院された際は、皇太子さまが「臨時代行」として、公務を代行された。政府が検討課題とする「女性宮家」の創設は、将来的に宮家が減少した際に、こうした「臨時代行」や負担軽減を可能にする方策の一つとして考えられている。
陛下の負担軽減が十分でないと指摘される背景には、公務を大切にされる陛下ご自身の思いがある。がん手術を経て退院された15年の記者会見では「公務をしっかり果たしていくことが、病気に当たって心を寄せられた多くの人々にこたえる道であると思っています」。22年には前年の軽減策に言及し、「今のところ、これ以上大きな負担軽減をするつもりはありません」と述べられている。
陛下は11月の入院時も、病室にパソコンを持ち込み、式典のお言葉を練られていたという。入院中で行かれなかった行事も、中止でなく「延期」とされたものが目立ち、退院後、すでに一部を行われている。
宮内庁の羽毛田信吾長官は11月10日の定例会見で「陛下の場合、象徴の地位と、それに伴うご活動は切り離せない。それ(ご活動)があっての象徴、というお気持ちをないがしろにして大なたはふるえない」と、基準を決めて一律に公務を減らすのは難しいとする考えを示し、「非常につらいところ」と述べている。宮内庁には陛下のお気持ちを踏まえた上で、新たな負担軽減策が望まれている。
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近年の「ご負担軽減」
陛下のご負担軽減の必要性が話題に上るようになったのは、平成15年に前立腺がんの手術を受けられたころからだ。過去には軽減策が進められたこともある。
20年末に体調を崩された直後の21年1月、宮内庁は、陛下が毎回お言葉を述べられてきた全国植樹祭、全国豊かな海づくり大会などの式典で、基本的にお言葉をなくすと発表した。お言葉で陛下は通常、行事や開催地域に関連した、ご自身の思い入れやエピソードを丁寧に盛り込まれる。宮内庁はその準備に費やされる労力が、非常に大きいと考えたからだ。現在は「60回」などの節目の大会などのみでお言葉を述べられている。
また、このときには毎月1日に行われてきた宮中祭祀の「旬祭」を、5、10月以外は代拝とすることも決まった。11月23日の「新嘗祭」でも、22年からお出ましの時間を短縮。入院により臨まれなかったが、今年はさらに時間を短縮することが決まっていた。