南西方面の守りは日本の役割。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 










【正論】拓殖大学大学院教授・森本敏 

「空・海戦闘」に応じ防衛努力を。





冷戦後になって、中国は海洋に力を押し出してきた。すでに、南シナ海については、チベットや台湾と並ぶ「核心的利益」と位置付けている。中国が第一列島線の内側でアクセス(接近)拒否の能力を確保しようとしていることは、南シナ海でのASEAN(東南アジア諸国連合)各国に対する攻撃的態度から見て明らかである。

 ◆中国進出視野にASB構想

 さらに、第一列島線を越えて第二列島線との間における、エリア(領域)拒否の能力を広げようとしていることも、尖閣諸島周辺を含む日本近海での中国海軍の動きを見れば、明白である。空母や第五世代戦闘機など中国軍の海空能力が向上するに伴い、中国の領域拒否能力が向上することは大いに予想される。東シナ海まで「核心的利益」に含まれているかどうかとはかかわりなく、中国の周辺での積極的な活動は、アジア太平洋地域の共通懸念になっている。

 米国は昨年から、こうした接近・領域拒否戦略に対応して、ASB(エア・シー・バトル=空・海戦闘)という運用構想を検討し始めた。その概念を形成して運用を調整するため、ASB担当部署を国防総省内に設置したことも、この11月には公表されている。米国は来年2月ごろには、その構想の具体的な計画案について、日本側に協議を求めてくるであろう。

 構想は、情報機能や海空軍中心の長距離攻撃力の重視を含むものと予想され、在日米軍の装備・配備や普天間飛行場移設問題に影響を与える可能性もある。それは必然的に、米軍と自衛隊に相互運用性の強化を促すだろう。そして、その成果は、日本がいかなる防衛努力と役割分担を果たすかで決まる。米国が日本にさらなる防衛努力を求めるのも、そのためだ。

 ≪国防費削減でもアジア重視≫

 米国は国内的には、多額の国防予算の削減を迫られている。予算削減の調整に当たった超党派委員会の調停が決裂し、今後10年で当初計画の4500億ドルに加えて、最大5000億ドルの削減を迫られるため、米政府は削減額をできるだけ抑えようと努力している。

 来年度以降の国防予算案は、来年2月ごろに議会に提出される見通しだ。その後の展望は不透明ではあるが、この予算削減は、ASB構想の履行にも大きな影響を与えそうだ。陸上兵力(陸軍・海兵隊)の人員とその兵器体系だけでなく、空母、艦艇、戦闘機を含め海空軍の兵器体系の調達計画も相当に縮小されかねないからだ。

 そうした中でも、オーストラリア議会でのオバマ米大統領の演説や、米外交誌フォーリン・ポリシーへのクリントン国務長官の寄稿論文に見られるように、米国のアジア重視方針に変わりはない。

 米国のアジア政策の中心的課題は、周辺に射出してくる中国にいかに対応するかにある。米国の対中政策は、中国が国際社会の法と秩序を適正に順守してこの地域で安定要因となるように働きかけるものであって、中国の封じ込めや対中包囲網の形成を意図したものではない。だが、中国が今後、米国をはじめ他国の権益を大きく損なうようなやり方で、海洋・宇宙・サイバー空間に容赦なく進出してくるのであれば、米国は同盟国や友好国と協力して、地域の安定維持のため主導的役割を果たし、断固たる対応を取るであろう。

 日本は地政学的に、中国と米国の中間に位置しているが、日本の選択肢は明確であり、米国と協力してこの地域と国家の安定と繁栄を維持すること以外にはない。

 ≪南西方面の守りは日本の役割≫

 それだけに、日本としては、米国防予算の大幅削減とASB構想から導き出される結論を考えておくべきである。それは、海兵隊をグアム、ハワイ、豪州、ASEAN、沖縄などに分散配置して地域全体の抑止を維持しつつ、海空軍の長距離攻撃能力を展開して南シナ海や東シナ海に進出する中国の接近・領域拒否戦略に対応できる態勢を取るということである。

 沖縄を含む南西諸島方面は第一列島線を越えてくる中国を阻止する前線地域であり、ASB構想に伴う日米間の相互運用性を強化するため、この地域の防衛態勢を強固にするのは日本の役割である。とりわけ、日米両国で基地、施設の共同使用を拡大しつつ、基地インフラを確保し、情報、警戒、監視の機能を強めることは、日本の重要な役割である。緊急時における米軍への支援・協力を充実することもまた、待ったなしであり、そのために、周辺事態法の改正や日米韓の防衛ガイドラインの策定に速やかに着手すべきである。

 同時に、東アジア諸国と協力して、非軍事的な緊急事態すなわち災害救援、人道支援、平和構築、能力・人材養成、海洋安定-などのための多国間協力演習、訓練を沖縄周辺で進めて多国間協力体制を強化することも欠かせない。

 いずれにせよ、アジアに張り出してくる中国と、国防費削減に苦しみつつ新たな対中戦略を進めようとする米国の間にあって、日本が独自の防衛戦略を確立して、南西方面の防衛態勢を強化することは喫緊の課題になりつつある。

                                  (もりもと さとし)