【野口裕之の安全保障読本】日米VS中国
大東亜戦争という大戦(おおいくさ)に負けてこの方、日本国は、日本民族は「起きてはならぬことは起きぬ/起きて欲しくないことは起きぬ」と、安全保障への思考停止を続けてきた。この知的怠慢が「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意」などという、外国人に国運を委ねるおよそ現実味のない、空虚で愚昧(ぐまい)な憲法を放置して恥じない国柄を支えている。
平和は「戦間期」
それに引き換え米国では、権威あるシンクタンクが相次いで中国との軍事衝突の可能性を公表した。平和を「戦間期」ととらえている証左であろう。平和とは残念ながら戦争と戦争の間の時期にすぎないということ。実際、記録に残る人類の歴史5千年で主要な戦争は1万4千回以上、死者は地球人口に匹敵する50億人に達する。過去3400年の内、平和な時代は250年にすぎない。
米ランド研究所は、日中軍事衝突の可能性を明記した分析報告「中国との衝突」を発表し、その過程をこう警告した。
《東シナ海での領有権争いが端緒の洋上事件・遭遇により、日中の主張がエスカレートして起こり得る》
歯止めがかからない背景を、こう指摘している。
(1)中国側には戦前の日本に対する怒り・怨みが残る。そこに、中国側からみての日本の無神経な言動が重なることで、日中関係は基本的に良好でない。
(2)東シナ海での尖閣諸島領有権とEEZ=排他的経済水域に関し主張対立が絶えない。
実態は、中国が加害者で被害者は日本だが、報告では、仮に日中戦わば「日本を支援し、他の諸国にも同盟相手はあくまで米国が望ましいと印象付ける」と提言。米国には日本国土や自衛隊への被害を抑えるとともに、制海空権の確保や奪回が求められ「米国又は日本による中国の拠点目標攻撃も覚悟せざるを得ないかもしれない」と断じた。
北政権崩壊を想定
一方、米国防総省系の国防大学国家戦略研究所(INSS)も、北朝鮮政権崩壊時の米中の反応を分析した報告書「朝鮮の将来」をまとめた。
報告書は、国家ではなく政権だけが崩壊すると予測する。具体的には「政権を支配層内勢力が倒し、新政権を樹立。ところが、新政権は脆弱で、軍や核兵器、官製メディアの監理に努めるが、市民の国外大量脱出が起きる」とする。さらに(1)北危機が中朝国境を越える(2)新政権が核兵器・ミサイル管理能力を失う(3)米国又は韓国が国連の場で協議せず、北に軍事介入する-場合、中国による軍事介入は不可避だと強調した。
米国も、非核化・南北統一を悲願とする主流派が、政権崩壊をとらえて危険を冒してでも対北進攻を強行するとみる。
米中全面対決となれば、米国内で反対意見も強まる。ただ、北市民の大多数が中国の支配を嫌い、米韓による介入を希望すれば、米国は新生国家樹立支援といった選択肢を広げられる-との展望にも言及した。
もっとも、中国にしても軍事介入以前に経済・政治・外交面で新政権を支援、北の核保有さえ受け容れ、自陣営への囲い込みを強化するとも観測する。
国防総省と提携する戦略予算評価センターでも中国は当初、アジアの海への支配を非軍事的方法で米国に認めさせようとするが、決裂すれば対米先制攻撃を敢行。その後「防御」に転じると言明する。米国が「中国の既得権益を白紙に戻すのは犠牲が大き過ぎる」と判断するのを待つためだ。
主権国家の決意を
いずれのシナリオも、中国が日米と戦端を開く可能性を少なくないと見積もる。当の中国共産党系の環球時報は社説で「アジアの海で中国と領有権争いをしている関係諸国が、米国を後ろ盾に中国を屈服させようとしている」「反撃に出ざるを得ない」と主張。「軍事衝突が近付いている」と結んでいる。
米中軍事衝突は、米国にとり「ベトナム戦争以来最大の危機」(INSS報告)なのは疑う余地がない。「思考」を再開させ、日中衝突に軍事上備えることは無論、米中衝突でも同盟国であるわが国は、米国を軍事的に全面支援しなければならない。さもなければ同盟は崩壊する。しかも、主戦場は日本近海である可能性が高い。
中国が「平和を愛する諸国民」ではないこと、「公正と信義に信頼」できぬことを再認識しようではないか。そもそも「われらの安全と生存」の「保持」は、主権国家であるわれら自身が「決意」すべき義務であり権利なのだ。