【防衛オフレコ放談】
陰の主役はユーロファイター FX機種選定秘話。
航空自衛隊の次期主力戦闘機(FX)の機種選定が大詰めを迎えている。政府は11月末までに導入機種を決める方針だったが、12月にもつれ込んだ。欧米の3機種が名乗りを上げ、1機あたりの調達価格が100億円を超える可能性もある一大商戦だけに選定作業は厚いベールに包まれているが、漏れ伝わってきた「秘話」を紹介する。
■英語の提案書に苦労
FXは昭和46年に導入が始まり老朽化した空自F4戦闘機の後継機。(1)米英などが共同開発中のF35ライトニング2(2)米海軍のFA18E/F(3)欧州共同開発で英独伊などが採用しているユーロファイター-が候補となっている。
「英語に苦労しているんですよ」。防衛省幹部はそう話す。選定作業は空幕・次期戦闘機企画室が中心となり、メーカーなどが提出した提案書の内容を審査しているが、英語で記述された提案書の読解に四苦八苦しているというのだ。
提案書を募集する際の文書で「英語も可」と付記してしまったためだ。別の幹部は「防衛省は客なのだから、日本語しか受け付けないと書けばよかった」と後悔するが、後の祭り。企画室に召集された精鋭たちは辞書を片手に分厚い提案書と格闘する日々を送ったという。
■なりふり構わぬ英政府
早くから空自が本命視していたのがF35。敵のレーダーに捕捉されにくいステルス性が特徴で、3機種の中で唯一の第5世代戦闘機と呼ばれる。
格の違いにあぐらをかいているわけではなかろうが、政府への売り込みは地味だった(もしかしたら営業活動もステルスなのかもしれないが)。F35とFA18という2機種を提案している手前、米政府がどちらかに肩入れすることができないことも影響している。
逆に、果敢に各界への浸透を図ったのがユーロファイター陣営。対日活動を主導したのはBAEシステムズと英政府で、とりわけ英政府のなりふり構わぬ攻勢は話題となった。
11月3日にフランス・カンヌで野田佳彦首相と会談したキャメロン英首相はユーロファイターの採用を働きかけた。「F35が有力」とのマスコミ報道が続くと、ディビッド・ウォレン駐日英国大使は同月23日の読売新聞に寄稿し、ユーロファイターの導入を強く求めた。
防衛省に日参するにとどまらず、あまり知られていない安全保障関係の政府庁舎でユーロファイター陣営の関係者を目撃したこともある。
■隠れユーロ派
そうした売り込みが一定程度、功を奏しているのも事実だ。「FXは無理にしても、何か英政府の熱意に報いてやれないものか」と外務省首脳が部下に漏らしたとされるのもそれを証明している。
公言こそしないが、政界や防衛省では「隠れユーロ派」は間違いなく増殖している。F35の開発遅延に対する懸念や、日本の防衛産業へのメリットが少ないといったことはよく指摘されるが、防衛省内にはこんな声もある。
「ユーロファイターに試乗したことのある空自パイロットは機体・運動性能を高く評価している」
ここで実名を挙げるのは控えるが、国会議員や官僚OBで著名な「日米同盟重視派」にも隠れユーロ派が複数いる。彼らに共通するのは、いつまでも米国一辺倒ではなく、F35の開発では米国と手を組みつつ、一方で米国抜きでユーロファイターを開発した英国流の「二股」を見習うべきだという考えだ。
ただ、前沖縄防衛局長の不適切発言で、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題はますます混迷を深める。国防費削減により米軍のF35の調達機数が減るとも指摘され始め、「この政治状況でFXにユーロファイターを導入すれば虎の尾を踏む」(政府高官)ことになり、隠れユーロ派が仮面を脱ぐのは難しいようだ。
(半沢尚久)