日本へのサイバー攻撃の発信源が明らかに。
2011.11.30(水)古森 義久:プロフィール
米国でも日本でも、サイバー攻撃が波紋を広げ始めた。サイバー攻撃とは、コンピューターのネットワークへの攻撃である。日本では衆議院や参議院の各議員の事務所や三菱重工業のような防衛産業の中枢にサイバー攻撃がかけられた。
その発信源はほとんどが中国だという証拠が指摘されている。もし中国だとすれば、中国のどのような組織が米国や日本のコンピューターネットワークに攻撃を発してくるのか。
その発信源がワシントンで明らかにされた。結論を先に言えば、日米両国にサイバー攻撃をかけてくる最大の仕掛け人は中国人民解放軍の「総参謀部 第3部」という組織だというのだ。
米国の首都ワシントンでも2010年から2011年にかけて、サイバー攻撃の被害が頻繁に伝えられるようになった。
サイバー攻撃には大別して2種類がある。第1はコンピューターネットワークへの侵入である。情報を盗むことが主目的となる。第2はコンピューターネットワークの攪乱や破壊である。米軍の司令部がコンピューターを通じて前線の部隊に命令を送るのを外部から妨害すれば、軍事的な攻撃にも等しくなる。
米国では、国防総省関連の電子メール網や、中国批判で知られる有力議員の事務所のコンピューターネットワークへのサイバー攻撃が相次いでいる。米国大企業のサイトにも侵入や破壊の試みがあった。また最新の報告では、米側の人工衛星に対して、明らかに中国からの発信とみられるサイバー攻撃が仕掛けられたと指摘された。
総要員13万人の通信諜報活動部隊「総参謀部 第3部」
さて、こうした背景の中で、これまで国防総省の中国部長などを歴任した中国軍のハイテク研究家、マーク・ストークス氏らは、11月下旬、「中国人民解放軍の通信諜報とサイバー偵察の基盤」と題する調査報告を作成した。
同氏は現在、民間の安全保障研究機関「プロジェクト2049研究所」の専務理事を務めており、この報告も同研究所の調査結果として公表された。ストークス氏を中心に同研究所の2人の専門家が調査の作業に加わっている。
中国軍の動向についての情報がなぜ米国から出てくるのかといぶかる向きもあるだろうが、秘密のベールに覆われた人民解放軍の動きは、日ごろ米国が超大国ならではの政府や軍の情報収集能力を駆使して驚くほど詳細に把握しているのである。ストークス氏の報告も同氏自身が中国部長を務めた国防総省の中国情報にももちろん立脚しているわけだ。
この報告は、まず米国や日本などの政府、議会、軍関連機関へのサイバー攻撃は、大部分が中国からだという見解を踏まえて、その中国のサイバー作戦の最大の推進役は、人民解放軍総参謀部のうち「技術偵察」を任務とする「第3部」だと明記している。
この第3部の従来の任務は「SIGINT」(通信諜報活動)と呼ばれる外国機関の通信傍受や暗号解読、自国側の通信防御だが、近年はその枠を大幅に広げ、サイバー偵察、サイバー利用、サイバー攻撃なども活発に実行するようになった、と記している。現在では中国の対外的なサイバー作戦の統括はこの第3部によるのだという。
報告はこの総参謀部第3部全体については以下のように伝えていた。
「第3部は年来、SIGINTを主要任務とし、北京市海淀区の西側丘陵地帯、厢紅旗地区に本部を置き、傘下には合計12の作戦局と3つの研究所を抱えている。第3部の司令官は孟学政少将、総要員は13万と推定される」
同報告によると、中国軍総参謀部は、これからの戦争やそのための態勢構築にはコンピューターネットワークでの攻防が不可欠だとの基本認識を確立し、そのためのサイバー作戦は第3部に統括させて、潜在敵の軍や行政に限らず、政治や経済の関連機関のコンピューターネットワークから特定個人の電子メールまでに侵入したり、妨害の攻撃をかける作戦を強化しているという。このため、第3部は中国全土でもコンピューター処理能力の高い人材が最も多数、最も集中的に集まる組織となったとされる。
人民解放軍のサイバー攻撃に官民一体で対抗せよ
では、この総参謀部第3部という巨大な組織の中で、米国や日本へのサイバー作戦を担当するのは、どこなのだろう。
この点について同報告は、米国へのサイバー攻撃などを担当するのは、第3部傘下の12の作戦局の中の上海に主要拠点を置く「第2局」だとしている。この第2局は「第3部全体の中でも花形の作戦局とされ、米国とカナダを恒常的に監視し、両国の政治、経済、軍事の関連情報を集めるほか、サイバー作戦にも従事する」という。
同報告は、日本へのサイバー作戦は第3部傘下の「第4局」が担当する、としている。
同報告によると、第4局はまず山東省青島地域に本局を置き、その付近に数カ所の基地を有する。第4局のその他の支部は杭州、青島、大連、北京、上海などにもある。
日本担当部門は、さらに第4局とは別個に中国軍の7大軍区のうちの山東省済南市を本部とする済南軍区にも技術偵察局として存在する。この済南軍区の技術偵察局だけでも専門技術者が約670人いるという。
ちなみに総参謀部第3部傘下の作戦局のうち、「第5局」はロシア担当、「第6局」は台湾、「第8局」はヨーロッパ担当だとされる。
総参謀部には電子作戦を担当する部門として「第4部」が存在する。第4部の基地は海南島や河北省廊坊にあるが、組織上は第3部に従属する形となっているため、サイバー作戦としてはやはり第3部が主役だとするのが正確なようである。
このように日本へのサイバー攻撃は、中国の人民解放軍総参謀部から直接に仕掛けられているとの認識が米国では強いのだ。
日本側でも、中国からのそうしたサイバー攻撃に対しては官民が一致して警戒を強め、対応策を決める時機が来たと言えよう。