【40×40】山田吉彦
ソマリア海賊の猛威は収まるところを知らない。国際商業会議所国際海事局の発表によると、今年9月末までに発生した海賊事件は352件。そのうちソマリア海賊によるものは、半数以上の199件に上る。ソマリア海域では、現在、約20カ国、40隻の艦艇が海賊対策にあたっている。日本の自衛隊も2009年3月から自衛艦を派遣し、既に約300回、延べ2千隻以上を護衛した。また、今年6月には、ジブチに自衛隊の活動拠点をつくり、P3C哨戒機で空からも警戒している。確かに自衛隊が哨戒任務に当たるアデン湾では、被害件数は半分以下に減った。しかし、海賊は、警戒の厳しいアデン湾を避け、警備の手薄な紅海やインド洋に活動範囲を広げていった。
海上保安庁と海洋政策研究財団は、11月初旬にジブチ、オマーン、ケニア、タンザニア、セーシェル、プントランド(ソマリア内の自治政府)の海上警備責任者を招聘(しょうへい)し国際海事機関とともに海賊対策の会議を行った。この会議では、海賊を裁く国際法廷の不備が指摘され、海賊は捕まっても裁かれる事例が少ないことが問題となった。加えて、海賊に対処する沿岸国の警備能力の強化が急務であり、その人材育成において日本が貢献することが求められた。
日本では、いまだ、ソマリアの海賊に効果的な対応は打ちだされていない。一部の船会社は、海保や海自の担当官が日本船に乗り込み警備することを望んでいるが、「人員に限界がある」「費用がかさむ」などの点で現実的でないとされている。船員が武器を持つことは許されない。そのうえ、政府が沿岸国の警備能力の向上のために警備船を贈ろうとしても、武器輸出三原則に触れ制限される。また、3月にソマリア沖で日本船を襲った海賊が米軍により逮捕され日本に送られたが、通訳の不備などからいまだ裁判も行われていない。海賊から日本の生命線であるシーレーンを守るためには、既存の枠を超えた取り組みが必要だ。南シナ海における航行安全対策もしかりである。「航行の自由」を守るためには、国としての強い意志を示さなければならないのである。
(東海大教授)