【主張】古川さん帰還
宇宙飛行士の古川聡さんが、国際宇宙ステーション(ISS)の長期滞在を終えて地球に帰還した。まずは、無事帰還を心から喜びたい。
古川さんの宇宙滞在は167日で、1回の飛行では日本人最長だ。日本人の宇宙滞在は通算615日になった。米国とロシアには遠く及ばないものの、ドイツを抜いて世界3位の宇宙滞在実績である。
医師の経歴を持つ古川さんは、地上と宇宙空間を結ぶ遠隔診療システムの実証試験など多くの医学実験に取り組んだ。将来の月や火星への有人飛行に向けて、過酷な宇宙環境が人体に及ぼす影響を調べることが本来の目標だ。
だが日本では、こうした宇宙滞在実績や医学実験で得られた知見をどんな形で継承するかの大方針が定まっていない。政府の宇宙開発戦略本部は、将来の有人宇宙開発のあり方をめぐる議論を棚上げにしてきたからだ。
日本は米スペースシャトルとISS計画を通じて有人宇宙活動の大半を学んできた。シャトルは引退し、ISSの運用も今のところ2020年までとされている。
米国は火星有人探査を新たな宇宙開発の柱とし、中国は独自の宇宙ステーション建設を目指している。ISSの存在意義が次第に薄れていくのは避けられない。
人が宇宙に行くには膨大な費用がかかり、リスクも伴う。日本はISS計画に年間約400億円を投じてきたものの、「これといった成果が見えない」などの批判もあり、宇宙開発戦略本部は運用の効率化と経費圧縮の方針を打ち出した。世界の宇宙開発情勢や日本の財政を考えれば、一つの判断といえなくもない。
しかし、有人宇宙活動は米露中などの主要国でも宇宙戦略の柱となっている。日本の長期戦略が定まらない現状では、ISSとともに有人宇宙開発へ向けた積み重ねが立ち消えになりかねない。
小惑星探査機「はやぶさ」のように優れたロボット技術を駆使した無人探査で世界のトップを目指すのは当然だ。一方で、日本独自の有人宇宙活動を目指すのか、目指さないのか。国際協力を模索する選択肢もある。事業仕分けのような目先の費用対効果だけで判断してはなるまい。
次世代に宇宙の夢を継承するのは、今の政府の責任だ。そのための議論を避けてはならない。