「在任中に靖国参拝すべきだった」
「慰安婦謝罪発言はしていない」
自民党の安倍晋三元首相は22日、産経新聞のインタビューに答え、首相在任中(平成18年9月~19年9月)に靖国神社に参拝しなかったことについて「それ以来、首相の参拝が途絶えたことでは禍根を残してしまった。春の例大祭か夏(終戦記念日)に参拝すべきだった」と述べ、首相の靖国参拝を定着させるためにも参拝を決断すべきだったとの考えを表明した。
安倍氏は首相就任前は一貫してときの首相の靖国参拝を要請・支持してきた。首相退任後も毎年、参拝を続けているが、自らの在任中は「参拝する、しないは言わない」とする“あいまい戦術”をとっていた。
その理由について安倍氏は「(小泉前政権時代に首脳交流が滞った)日中関係を安定的な関係に戻し、拉致問題や日本の国連安全保障理事会常任理事国入りへの支持を得るためだった。その上でしかるべきときに参拝しようと考えていた」と明かした。
実際、当時の政府高官によると「安倍内閣時代はそれまでに比べ、中国は拉致問題に関してかなり詳細な情報を伝えてくるようになった。北朝鮮にも拉致問題解決を相当強く要求するようになった」とされる。
安倍氏は「18年10月に訪中し、日中関係改善という所期の目的は果たした。翌19年は春秋の例大祭か夏に参拝をと思っていたが、秋の例大祭の段階では首相を辞めていたので時機を逸してしまった」と述べた。
また、19年4月に米ワシントンで行われたブッシュ米大統領(当時)との会談で、大統領に慰安婦問題を「謝罪した」と報じられた問題に対し、「会談で慰安婦問題は全く出なかった。そもそも日本が米国に謝罪する筋合いの話ではない」と否定した。
複数の元政府高官によるとブッシュ氏が正式会談前、安倍氏に米国産牛肉の輸入再開問題と慰安婦問題について「面倒だからこの二つは話したことにしておこう」と提案し、「話は数秒で終わった」(高官)。しかし、記者会見で慰安婦問題について問われたブッシュ氏は「首相の謝罪を受け入れる。大変思いやりのある率直な声明だ」と答えていた。
安倍元首相インタビュー、一問一答
--首相在任中、靖国神社に参拝しなかったのは
「首相時代は靖国に『行くか行かないかを言わない』という姿勢を取った。それはまず、日中関係を改善し、安定的な関係に戻し、拉致問題への協力、日本の国連安全保障理事会常任理事国入りへの支持などを得るためだ。その上でしかるべきときに参拝しようと考えていた」
--その際、中国にはどう接したのか
「靖国参拝の中止を要求されても絶対に『参拝しない』とは言わず、靖国にはいつでも行けるというフリーハンドを持ち続けることを原則とした。そのことによって(日本の首相の靖国参拝が国内政局不安定化に直結する)中国政府に対する主導権を握った」
--それは成功したか
「外交的にはさまざまな批判や見方はあるかもしれないが、所期の目的は果たした。しかし、それ以来、首相の靖国参拝が途絶えたことでは禍根を残したと思っている」
--参拝すべきだったと
「(平成18年10月の)私の訪中後は、日中関係はもう後戻りができない(相互依存の)関係になっていたから、翌19年の春秋の例大祭か夏(終戦記念日)に参拝しようと思っていたが、秋の例大祭の時点では首相を辞めていたので時機を逸してしまった。春か夏に参拝すべきだった」
--19年4月の日米首脳会談で、慰安婦問題でブッシュ米大統領に謝罪したとされたが
「ブッシュ氏が記者会見でそう述べたが、会談ではその話は全く出ていなかった。そもそも日本が(当事国でもない)米国に謝罪する筋合いの話ではない」
--首相官邸などを通して訂正を申し入れることはできなかったのか
「今、相当の時間がたったので言えるが、すぐに訂正を求めればよかった。ただ、共同記者会見で大統領が言ってしまったことについて、その場で『私はそんなこと言っていない』と否定するのも(外交儀礼上)難しい。事後に訂正を申し入れるのは可能だったろう」
(阿比留瑠比)