【笠原健の信州読解】
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/111120/plc11112007000003-n1.htm
病院船? いっそのこと退役米空母を購入しようぜ!!
病院船を導入しようという動きがまたぞろ政府内で出てきた。きっかけはもちろん、陸上の医療体制がまひした東日本大震災で、大規模災害時に多くの負傷者らを収容できる病院船を海上の拠点として活用しようというアイデアだ。だが、ちょっと待ってほしい。現状で病院船を保有しても結局は宝の持ち腐れに終わってしまう恐れがある。そんなチマチマした話よりもいっそのこと退役した米空母を購入したらどうか?
政府は10月21日に大規模災害時に負傷者らを収容する「災害時多目的船」の導入に向けた調査を行うために平成23年度第3次補正予算案に調査費3000万円を計上した。病院船導入の構想はこれが初めてではなく、阪神大震災を受けて当時の与野党内などで導入を求める声が出たことがある。
だが、わが国が病院船を導入してもあっという間に持て余してしまうことは間違いないだろう。現在、病院船を保有しているのは世界の中でも米国、英国、中国など数カ国に限られる。病院船の保有が効果的だというのならもっと多くの国が名を連ねていてもおかしくはないが、そうではないということが病院船の現実を如実に示している。
世界各地に軍隊を展開している米国が病院船を保有しているのはそれなりに納得できる理由があるだろう。しかし、集団的自衛権の行使はできないという珍妙な解釈を変えようともせず、国連平和維持活動(PKO)への参加にも及び腰なわが国の場合は米国とは全く事情が異なる。病院船を導入したものの出動する機会がめったになく、その機能を十分に生かすことができないということになりかねない。早い話が税金の無駄遣いというわけだ。
病院船を導入しても所管をどこにするのかでもめるのがオチだろう。「病院船だから厚生労働省だろう」「イヤイヤ、災害に伴う出動だから国土交通省ではないのか」「被災した自治体との連携が何よりも大事だ。総務省に決まっている」「なんで防衛省を外すのか」といった議論が噴出するに決まっている。
現在、海上自衛隊はおおすみ型輸送艦とひゅうが型護衛艦に野外手術システムを搭載して対応している。このシステムは手術車、手術準備車、減菌車、衛生補給車の4つの車両がワンセットになっており、開腹、開胸、開頭などの手術が可能で1日最大300人の手術に対応が可能だ、という。
病院船の場合、ヘリで負傷者らを次々に収容して船内の施設で治療などをすることになるが、大型トラックをベースにしている野外手術システムだったら機動力に優れており被災地に直接、乗り込むことだって可能だ。被災地ではヘリポートを設置できるような十分な用地が確保できない場合だってある。
中途半端に病院船を新たに建造するよりもその予算をもっと有効なことに使った方がいい。そこで提案したいのが退役した米空母の購入だ。軍事問題に関心のある人なら、退役米空母と聞いてピンと思い浮かぶのがキティホークではないだろうか。退役した通常推進型の米空母はジョン・F・ケネディやコンステレーションなどもあるが、キティホークは神奈川県の横須賀を事実上の母港としていたことから、わが国になじみが深い。
全長約324メートル、最大全幅が約77メートルに及ぶキティホークが現役復帰した場合、その所属は当然、海上自衛隊だ。軍艦(War Ship)なのだから、その所属が厚生労働省や国土交通省などであるわけがない。
海上自衛隊が運用する艦船としてキティホークは、ややオーバースペックな印象があるが、現役復帰したキティホークには災害対応は勿論だが、わが国が戦後初めて保有する空母として国防という最も重要な役割が課されることになる。
米国は東日本大震災に際して原子力空母、ロナルド・レーガンを派遣して被災地の救援活動に当たったが、わが国の近海を米空母が遊弋しているという事実が、被災地はもとより大震災と原発事故で言いようのない不安にかられていたわが国の国民にどれほどの安心感を与えたことだろうか。
このように大型空母の戦略的心理効果は計り知れないものがあるが、こうした効果は病院船なんかでは絶対に出せるものではない。それを認めようとしない、あるいは無視を決め込むというのがわが国の“進歩的文化人”と称する人たちだ。
キティホークの兵装をどうするかという問題があるが軍艦である以上、現役当時に準じた、あるいは全面的に改装して最新鋭の装備を施すことになる。スチームカタパルトももちろん、現役当時と同様に装備して運用する。
スチームカタパルトを装備せず、艦載機をスキージャンプ台で発艦させる方式もあるが、空母の生命は航空打撃力をいかに発揮できるかにある。ロシアやインドなどが運用しているスキージャンプ台方式では艦載機の能力を存分に生かすことができない。スチームカタパルトを装備していない空母は「●★■▲を入れないコーヒーなんて」と同じである。
帝国海軍は空母機動部隊を運用して「太平洋、インド洋狭し」と暴れ回ったが、第2次世界大戦後、わが国は空母を運用した経験がなく、キティホークを現役復帰させてもすぐにその能力を存分に発揮させるのは難しいだろう。解決策としては米海軍から技術支援を受けるのが最も現実的な案だ。米海軍の次に候補となるのは原子力空母、シャルル・ド・ゴールを保有しているフランス海軍だろう。
空母の1番艦をわが国が独自に新造するという案は同じ理由から見送った方が無難だ。1961年に就役したキティホークの艦齢は50年を超える。いわば“熟女”だ。独自に空母建造に乗り出すのは、米海軍によって実績が保証された“熟女”をちゃんと乗りこなせるようになってからでも遅くはない。
「お雇い外国人方式」だって考えられるだろう。空母に乗艦してその運用に精通した米海軍やフランス海軍の退役軍人に高額の報酬を支払って現役復帰したキティホークに乗艦してもらい、海上自衛隊にノウハウをたたき込んでもらう。空母艦載機としてはやはり実績が十分な米海軍のF/Aー18がベストな選択だ。
海上自衛隊が運用する空母は、平時には米海軍との演習を頻繁に実施し、日米同盟深化の象徴となる。太平洋やインド洋などを遊弋して沿岸諸国を親善訪問し、わが国の存在をアピールする。そして有事や大災害時の際には空母としての威力を存分に発揮する…。病院船などではとても成し得ない仕事である。
(長野支局長笠原健)