【朝鮮半島ウオッチ】
平壌住民データは「最高値3億円で売りに出ていた!」
日本人拉致被害者、横田めぐみさんと生年月日が一致する女性が掲載されていた北朝鮮から流出した平壌住民名簿(電子データ、210万8032)は、昨夏から韓国ソウル市内の情報関係者の間に、「3億円で買い取らないか」などと持ちかけられていたことが判明した。印字された「元日本人名簿」もあり、複数のルートで買い手を探す複数の仲介者がいた。真がんについての解析が急がれるが、日本政府は北朝鮮からのこうした情報流出の背景にも注目している。
(久保田るり子)
マイクロソフト社の表ソフト「アクセス」を使っていた名簿
週刊朝鮮が入手した210万人の平壌住民のデータは。マイクロソフトの図表ソフト「アクセス」に入力されており、検索が可能。昨夏から「買わないか」と持ちかけられた日韓関係者は数人いた。
韓国人情報では「昨夏は3億円(日本円換算)だった」。また、今年年初には「1億円でどうだ」と持ちかけられた日本人もいた。オリジナル・データのほかに検索済みの一部データに「500万円」から「数10万円」まで値がついていた。
闇市場に詳しい事情通によると、話を持ちかけてきたルートは複数あり、組織が背景にある可能性も指摘されている。「元日本人名簿」は少なくとも2種類(85人、68人)があり、これは印字されていたという。しかし横田めぐみさんはこの2種のいずれにも入っていなかった。85人名簿は正確には86人で1人が重複しており、曽我ひとみさんが入っていた。残る84人は日本人妻と思われる人たちだった。
平壌住民名簿は北朝鮮の国家安全保衛部(秘密警察)が2005年に作成したというふれこみで、韓国週刊誌は中朝国境で入手したとしている。だが人手で持ち出された可能性のほかに、ハッキングによる韓国内での入手ではないかとの見方も出ている。韓国情報当局は韓国マスコミに渡る前に入手、分析を行っているとみられる。
真がんについては、このデータに接した韓国の脱北者で元平壌住民(複数)が、現在平壌市内にいる身内の内容を確認したところ「間違いなかった」という証言もある。だが、検索可能な図表ソフトに入力されているため、変造の有無が解析の中心になっているもよう。
本物なら戦略的価値は「無限に高い」
だが、横田めぐみさんと生年月日が同じ「ハン・ソンエ」という女性のデータには、疑わしい部分も多い。
配偶者はめぐみさんの元夫と同名の「金英男」で、娘の名前はめぐみさんの娘の名前とおなじ金ウンギョンだが、この金ウンギョンは生年月日が本当の娘本人とは1カ月ほど異なっている。また、娘と生年月日の一致する金ウンギョンがもうひとりいて、その同居者は北朝鮮が2002年日本に通報した際のめぐみさんの夫の名前(金チョルジュン)と一致している。偶然にしては不自然さが残るほか、めぐみさんのような厳しい監視下に置かれていた人物の住民名簿掲載にも疑問がある。
日本側の関心は拉致被害者に集中。オリジナル・データの提供を韓国側に要請してしている。日本側は昨秋、「元日本人名簿」の一種を入手したが、オリジナル・データはまだ手に入れていないもようだ。ただ、入手しても「情報の正確上、結果について公表はまずない」(政府関係者)
一方、名簿が本物だった場合、戦略的な価値は極めて高いとされる。
登録には年齢、職業、組織所属名、家族構成、発給年月日、朝鮮労働党員などが記入されている。データを元に平壌市の人口動態、住民職業分布、平壌の都市構造、党員組織率、組織分析、労働党幹部の特定人物の所在地-などさまざまな分析が可能でで戦略的価値は「無限」(情報関係者)ともされる。
情報流出の背景は?
日本政府関係者が注目しているのは、情報流出の背景だ。
名簿の北朝鮮からの流出は昨夏だが、昨秋からは北朝鮮が日本政府関係者への接近が始まった。加えて日本人致被害者に関連する情報が出始めていた。昨年は「田口八重子さんに関する生存情報」が取り沙汰され、最近は横田めぐみさんに関する情報が多方面から出ている。10月初旬、韓国に脱出した脱北者が韓国国会議員に対し「めぐみさんは2004年はじめに生存していた」と証言。日朝関係筋は最近、「めぐみさんの娘が結婚した」という話を日本にもたらしている。
これらの動きは、来年の「金日成生誕100年」を前にした日朝交渉開始を望む北朝鮮側のサインなのか、あるいは金正日体制の緩みからくる個別の情報流出なのか。日本当局の分析能力の問われている。
馬場吉衛さんをしのぶ会に出席した横田めぐみさんの父滋さんと母早紀江さん=15日午後、新潟市
北朝鮮戦を前に平壌市内を観光する日本人サポーターら=15日(共同)