【安倍晋三の突破する政治】
安倍晋三元首相とダライ・ラマ法王(右)
チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ法王と7日、自民、民主両党の国会議員とともに会談した。法王は、チベットの方々の人権を守る信念を披瀝され、「中国において『自由』『民主主義』『基本的人権』『法の支配』が実現するよう働きかけていく。日本が発信してほしい。私たちが置かれた状況も変わる」と語った。
私からは、法王の被災地訪問へのお礼を伝え、チベットの人権状況に対する憂慮と、チベットの方々への共感を表明した。法王が求めている「高度な自治」「人権問題改善」に向けて協力していくことも約束した。
政府高官でありながら会談に出席した長島昭久首相補佐官と渡辺周防衛副大臣の勇気には敬意を表したい。非公式とはいえ米国の歴代大統領は法王と会談しており、英仏独各国の首脳も同じ対応を取っている。日本も国際社会の常識に近づいたのではないか。藤村修官房長官が長島氏らを注意したことは、画竜点睛を欠いたといえる。
さて、最新の世論調査で、野田佳彦内閣の支持率が急落した。
産経FNNは42・4%(前回比13・6ポイント減)、日本テレビは40・0%(同12・8ポイント減)。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉参加を決断することで政権を浮揚させようという思惑は外れた。TPP攻防で浮かび上がったのは、野田首相の「逃げ」の姿勢だ。
10日の記者会見で交渉参加を発表する予定が、民主党内の反発を受けて1日延期した。同じ決断でも、タイミングを間違うと印象は180度変わる。11日には国会でTPP集中審議が行われたのに、野田首相は参加を明言できなかった。これは誰が考えてもおかしい。
世界経済の現状と将来を分析して、TPP参加の戦略的意義をはじめ、メリットやデメリットを国民にきちんと説明すべきだった。ところが、野田首相は説明すべき場面でせず、逃げた。TPPに参加すべきと考えている人も、野田首相の姿勢を見て、「果たして、交渉能力があるのか」と不安を感じたはずだ。
不安が現実となったのが、ハワイでのAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で、クライマックスになるはずだった首脳会合に、野田首相が呼ばれなかったこと。これは極めて深刻といえる。
米政府高官は「あくまで現在交渉に参加する9カ国が大枠合意を確認する場だ」と語っていたが、こんな説明を真に受けることはできない。
これは民主党政権が壊した日米関係が、野田首相になっても回復していないことを示している。冷め切った日米関係を、野田首相らは「TPP交渉参加で埋め合わせよう」としたようだが、米国は突き放したわけだ。
米国に足蹴にされたことで、外交交渉で下手に出ることがあってはならない。今こそ、日本の総力を挙げて外交攻勢をかけなければならない。
ただ、この2年間、われわれは民主党政権下での外交失敗を目の当たりにしてきた。圧倒的不利な状況でのTPP参加交渉について、自由貿易主義者である私も不安を感じざるを得ない。
(自民党衆院議員)