【40×40】笹幸恵
今年は1991年に海上自衛隊の掃海部隊がペルシャ湾に派遣されてから、ちょうど20年の節目である。国際社会で、金は出しても人は出さないと白眼視されていた日本が汚名を返上した初の海外派遣。先日、その記念行事が横須賀で行われた。派遣部隊指揮官だった落合たおさ氏と、広報室長だった古庄幸一氏の講演を目当てに私は出かけていった。
落合氏は、遺書を書き、命懸けで任務に当たった隊員たちについて語った。通常は若い曹士が担当する浮遊機雷の見張りも、先任伍長らベテランが率先垂範で行ったという。危険を伴う任務。「若い奴(やつ)らは俺たちより長生きする権利がある」という理由からだった。また落合氏自身、何もかも手探り状態の中で、隊員たちの健康管理と士気の維持に心を砕いた。隊員たちは、そんな指揮官を、親しみを込めて「親父(おやじ)」と呼んだ。
古庄氏は、この意義ある派遣部隊をいかに広報していくか、マスコミ対応の苦労と裏話を披露した。同時に、隊員たちの家族にその活動と無事を知らせるための工夫を重ねた。携帯電話もメールも普及していない時代。彼のきめ細やかな配慮はどれほど家族を安心させたことだろう。
行事が進行していく中で、当時海上幕僚長だった佐久間一氏が発言する場面があった。
「私はね、国際貢献という言葉はあまり好きじゃないんです。だから、“国際社会に対する責務の遂行”と言っています」
何気ないその言葉に、私はハッとした。なるほど国際貢献とは美しい響きである。しかし、第三者的である。対岸の火事を消せば確かに“貢献”だろう。けれど自分たちの火事ならば消すのは当たり前。いちいち貢献とは言わない。それを佐久間氏は“責務の遂行”と言った。付け加えれば、そこに責務を果たすべき国の一員としての自覚と誇りがある。
最近では国際貢献を理由に自衛隊を志望する若者が増えていると聞く。順番が逆だ。まず国際社会に対する責務を自覚する。次にその遂行がある。結果としての、貢献なのである。(ジャーナリスト)
●=田へんに俊のつくり