【解答乱麻】元高校校長・一止羊大
「大阪維新の会」が府議会に上程した「教育基本条例案」を一覧すると、教育行政におけるこれまでの閉塞(へいそく)状況を打ち破ろうとする維新の会の強い意気込みが読み取れる。そこに示された知事・議会・教育委員会・校長の権限と責任の明確化を図ろうとする方向性は、極めて妥当なものである。十分に議論を行い成案を得ることができれば、明治以来のわが国の教育行政を大阪から変えるほどの一大画期になるに違いない。
とはいえ、この条例案の具体的な中身については、多くの問題があることも指摘しなければならない。原案通りに施行されると、大阪府の教育行政と学校教育が大混乱に陥ることは避けられそうにない。
本稿で問題の詳細を論じるゆとりはないが、その概要をまとめれば、
(1)関係法令に抵触する部分があるのではないか
(2)これまでの取り組み経過を正しく踏まえていないところがある
(3)学校管理をもっぱら企業経営の感覚でとらえている様子が窺(うかが)える
(4)学校教育の条理に照らしてそぐわないと思われる部分がある
-などを挙げることができる。
維新の会代表の橋下徹知事(当時)は、対案が出れば議論を通して原案を修正することもやぶさかではないとの意向を示したが、教育委員会は10月25日、「見解」を発表し、条例案の骨組みそのものを認めない姿勢を鮮明にするとともに対案の提出を拒否し、条例案の白紙撤回を要求した。この条例案が可決された場合には、5人の教育委員が総辞職する意向であることも宣言した。
既成の枠に囚(とら)われず改革を推し進めようとする政治家の知事と法令などの枠内で職務を遂行しようとする執行職の教育委員会の違いが滲(にじ)み出た対立劇だが、残念という他ない。
教育委員会の主張もわからないではないが、知事が十分な議論を求めているのに、議論を拒否するような「見解」を出したのは短慮が過ぎる。少なくとも、教員の懲戒や分限に関する規定など社会通念上問題が少ない部分だけでも、溝を埋める努力をすべきだったのではないか。
ところでこの度の条例案では「学校管理機構の整備」という重要な課題が考慮されず、管理の仕組みは変えないまま校長に従来以上の責任と仕事量を付加している。これでは、規律ある学校管理の実現は望めない。
条例案が盛り込んでいる相対評価による教員人事評価制度の導入は、学校管理の閉塞(へいそく)状況をいっそう深めるものの典型といえるだろう。これは全教員の5%に必ず最低評価のDをつけることを校長に義務づけ、2回連続D評価の教員は免職を含む分限処分の対象とするというものだ。
校長1人で数十人、場合によっては100人を超える教員の動向を的確に把握し、分限処分に堪えうる相対評価を適正に行うことなどできるものではない。無理に行えば、評価結果にまつわるトラブルが生じるなど、新たな問題の火種になりかねない。数年前に始めた絶対評価による「評価・育成システム」の総括もなくこのような制度を出してくること自体が、現場感覚にそぐわない。
公表された資料によれば、ピラミッド形の学校管理機構を導入することについて、維新の会と教育委員会の基本認識は一致しているようだ。それならば、これこそまず実現すべきだと思うが、どうであろうか。
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【プロフィル】一止羊大
いちとめ・よしひろ (ペンネーム)大阪府の公立高校長など歴任。著書に『学校の先生が国を滅ぼす』など。