【主張】ギリシャ国民投票
世界経済を「人質」に、開き直っているという印象さえ受ける。欧州連合(EU)が先月27日にようやく合意したギリシャの債務削減などの包括支援策について、同国のパパンドレウ首相が受け入れるかどうか国民投票を実施する考えを突然表明したことである。
EUからの財政支援と引き換えにギリシャは緊縮財政を求められ、国民が強く反発している。政権基盤が弱いパパンドレウ首相は国民投票という奇手によって一気に信を問う「政治的賭け」に出たようだが、あまりに唐突で無責任ではないか。
首相の判断が問題なのは、欧州ばかりか世界中に悪影響を及ぼしかねないからだ。包括策はギリシャ債務の一部棒引きや、銀行の信用力を高めるための資本増強策、ギリシャ国債などを買い支える基金増強の3点セットだが、基金には欧州だけでなく、日本など世界も資金を出している。
サルコジ仏大統領が「国民の声を聴くことは正しいが、それぞれが必要な努力をしなければユーロ圏の結束は保てない」と批判したのも当然だ。
ギリシャは一昨年末の財政危機の発覚後、国債の償還資金にも事欠き、欧州各国と国際通貨基金(IMF)から援助を受けている。国民投票で包括策が否決されるとEUの支援もなくなり、財政破綻は必至だ。その場合の金融市場や、銀行の信用不安拡大を通じた世界経済の混乱をどこまで想定しているのだろうか。
労働人口の4分の1が公務員で50歳代から年金が支給される社会、脱税もまかり通る風潮は、やはり異常である。ギリシャ首相は身を賭して緊縮策や改革の必要性を説き、国民も自ら痛みを引き受けなければならない。
欧州も改めて危機意識の共有と結束が問われている。ここまで危機を深刻化させたのは、対応が後手に回ったせいでもある。危機封じに足並みを揃(そろ)え、ギリシャを粘り強く説得すべきである。
欧州危機の余波で超円高に見舞われている日本も、拱手(きょうしゅ)傍観は許されない。主要20カ国・地域(G20)首脳会議が仏カンヌで始まった。参加している野田佳彦首相は先の国会で欧州の基金への追加拠出を検討する考えを表明したが、その前提として欧州に対し、危機収束への覚悟を厳しく問い質(ただ)してもらいたい。